福島原発「生業訴訟」、なぜ国に勝訴できたのか

原告弁護団の馬奈木厳太郎事務局長に聞く

高裁判決は、「長期評価」を踏まえて福島県沖の海底地盤で津波を引き起こす地震が起こりうることを前提に東電がシミュレーションを実施していれば、福島第一原発の敷地高さ(O.P.(小名浜港工事基準面)+10メートル)を上回る津波による浸水は遅くとも2002年末までには予想できたと結論付けた。そのうえで、設備の水密化など必要な対策を講じていれば、今回の重大事故は回避できたと認定した。原告の主張に理があると認めた内容だ。

独自に入手した証拠の提出や専門家の証人尋問に加え、東電の旧経営陣を対象とした刑事訴訟や株主代表訴訟などで提出された証拠なども活用し、「長期評価」の重要性や信頼性の立証に全力を注いだ。現在、東京高等裁判所で争っている、群馬県や千葉県に避難した原告が提起している訴訟の弁護団とも連携し、責任論の立証を進めてきた。

国や東電の主張は一蹴

――国や東電はどのような反論を展開しましたか。

国や東電は、津波による浸水は予見できず、重大事故を回避することもできなかったと反論した。両者(国、東電)は「長期評価」について信頼性が乏しいと主張したが、裁判所はそうした主張を一蹴した。

「長期評価」自体が、阪神淡路大震災を踏まえて法律に基づき設置された国の機関で、一線級の専門家や研究者による検討を元に作成・公表されたものであり、その信頼性は揺らがないと判断。その内容を無視したり、その知見を取り入れないという発想は適当ではないとした。

――判決文ではかなり厳しい表現が目立ちました。

まなぎ・いずたろう/1975年生まれ、福岡県出身。大学専任講師を経て現職。生業訴訟のほか、広野町の高野病院、福島市の竹林偽装除染監査請求などの代理人を務める。演劇・映画界の#MeTooやパワハラにも取り組んでいる。ドキュメンタリー映画では、『大地を受け継ぐ』(井上淳一監督、2015年)企画、『わたしは分断を許さない』(堀潤監督、2020年)プロデューサーを務めた(撮影:梅谷秀司)

例えば、東電の責任について、判決文はこう述べている。

「新たな防災対策に求められる負担の大きさを恐れるばかりで、そうした新たな防災対策を極力回避し、あるいは先延ばしにしたいとの思惑のみが目立っていると言わざるをえないが、このような東電の姿勢は、原発の安全性を維持すべく、安全寄りに原発を管理運営すべき原子力事業者としてはあるまじきものであったとの批判を免れないというべきである」

当時の監督官庁であった原子力安全・保安院(以下、保安院)が規制権限を行使せずに、東電の姿勢にお墨付きを与えたことについて、次のように批判している。

「結局、この時点(=2002年時点)の保安院の対応は、結果としては、国の一機関(=地震本部地震調査委員会)に多くの専門分野の学者が集まり議論して作成・公表した長期評価の見解について、その一構成員で反対趣旨の論文を発表していた一人の学者のみに問い合わせて同見解の信頼性をきわめて限定的にとらえるという、東電による不誠実とも言える報告を唯々諾々と受け入れることとなったものであり、規制当局に期待される役割を果たさなかったものと言わざるをえない」

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