東電が原発取材を縮小、緊急事態に便乗の批判 本社での会見中止、事故の真相究明に支障も
新型コロナウイルスの感染拡大防止で、政府が緊急事態宣言を発令した。それと軌を一にして、東京電力が毎週月曜日17時に開催してきた本社内での福島第一原子力発電所事故に関する定例記者会見を4月9日から当面取りやめる方針を示した。同時に、毎週木曜日17時にテレビ会議の形で開催してきた本社と福島第一原発、福島市内を結んでの同時記者会見も、本社屋に出向いた形での出席ができなくなった。
こうした方針変更は、変更前日の4月8日18時45分に一斉配信メールで伝えられた。東電は「本社建物内での会見中止は緊急事態宣言終了後の5月10日頃までをメド」とし、それまでは月、木曜日ともに、福島第一原発内の建物に詰めている広報担当者が説明し、その内容を、インターネットを通じて同時中継する。東京在住の記者は自社や自宅などで東電の説明内容を視聴するだけで、その場での質問ができなくなった。
リアルタイムでの質疑が困難に
東電は本社での対面方式での記者会見を取りやめる理由について、「従業員並びに関係される皆様の健康と安全を守るため」と説明する。本社屋への立ち入りは、「(電力供給に必要な)優先業務を行う社員や非常対策対応の要員を最優先する」(東電)という。
感染拡大の防止を理由に、広報体制を縮小する流れは東電に限ったものではない。すでに多くの企業が記者会見や対面での取材対応を中止している。感染防止の観点で、濃厚接触につながりかねない屋内での会見を見直すとの考え方自体は理にかなっている。
とはいえ、東電のやり方には大きな問題がある。福島第一原発では事故から9年が経過した現在でも、放射性物質の環境中への漏洩や労働災害、停電などのトラブルが後を絶たない。東電は定例の記者会見や臨時会見を開き、事実関係を説明。そして会見に出席した記者は、東電との質疑応答を通じてその詳細を把握し、正確かつ深みのある報道に務めてきた。ところが、東電の今回の対応は、そのようなリアルタイム、かつ直接的な取材を経たうえでの報道を事実上難しくしてしまう。
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