福島原発「生業訴訟」、なぜ国に勝訴できたのか 原告弁護団の馬奈木厳太郎事務局長に聞く
広域で被害者の救済が認められた
――仙台高等裁判所が出した今回の判決を、原告弁護団としてどう受け止めましたか。
国や東電の法的責任の認定(=責任論)、被害者の救済(=損害論)のいずれにおいても、福島地方裁判所の一審判決よりも踏み込んだ内容だ。
一審判決では国の責任割合は東電の2分の1にとどまったが、今回は規制権限を適切に行使しなかったことの重大性などから、国についても東電と同等の責任があると認定された。
このことは、安全対策など今後の原子力行政のあり方にも大きな影響を与えるものだ。加えて、被害が福島県全域および隣接県にわたるもので、被害者の救済が必要だと認められたことも意義深い。
――そもそも「生業訴訟」とはどのような裁判ですか。
「生業を返せ、地域を返せ!」というネーミングの通り、何よりも原発事故の前の平穏な暮らしを取り戻すことを求めた裁判だ。
また、原告にとどまらない被害救済を求めており、脱原発を目指している点も特徴的だ。原発事故前の空間放射線量に戻せという「原状回復」の請求については一審と同様に「作為の内容が特定されていない」として二審でも却下された。
しかし、高裁判決は原告の請求について「心情的には共感を禁じ得ない」と述べている。「元の生活を返せ」という旗印があったからこそ、第一陣・第二陣あわせて約4500名の原告が集まった。
――今回の裁判では何が争点になりましたか。
責任論に関しては、津波の襲来の可能性および津波による非常用ディーゼル発電機や配電盤などの重要設備の浸水被害、その結果としての重大事故を予見できたか否か(=予見可能性)、また、必要な対策を講じていれば重大事故を防げたか(=結果回避可能性)が、一審と同様に争点になった。
重大事故の予見可能性については、2002年7月に公表された国の地震調査研究推進本部(以下、地震本部)の報告書である「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価について」(以下、「長期評価」)の信頼性が争われた。
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