福島原発「生業訴訟」、なぜ国に勝訴できたのか 原告弁護団の馬奈木厳太郎事務局長に聞く

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――どのような取り組みが勝訴の要因に挙げられますか。

原告の申し立てを受け、仙台高裁の裁判官が帰還困難区域や旧居住制限区域などに自ら足を運んで被害の実態について検証したことが大きかった。

一審判決の結審日(審理の終結日)は福島県浪江町や富岡町などで大規模な避難指示解除が実施される直前の2017年3月17日だった。被害額の算定においては結審日までが対象とされるため、一審ではその後の被害に関して賠償額算定のうえで考慮されないという問題があった。

これに対して二審では避難指示解除後の実態についても立証ができた。二審においても現地検証が実施され、裁判官には解除後も続く被害の実態を見てもらうことができた。

また、一審に続いて二審でも本人尋問が実施され、被害者の生活史が語られ、被害に関する社会的事実についても多角的に立証できた。こうしたことが、賠償範囲の拡大や賠償水準の上積みにつながった。

責任論の攻防は決着している

―――今回の判決を踏まえて何を望んでいますか。

責任論についての攻防は事実上決着したと考えている。高裁の判決を待たずに亡くなった原告はすでに100人近くにのぼる。それだけに一日も早い被害者の救済が求められる。

国や東電には法的責任があるという前提に立って方針を転換してもらいたい。しかしながら国も東電も10月13日に最高裁判所に上告し、なお争う構えを見せている。原告側もやむなく上告したが、国や東電は解決を先延ばしにすべきではない。

――法廷内外で、今後どのような取り組みを検討していますか。

最高裁判決まで2~3年かかる可能性がある。他方で、第二陣の訴訟が福島地裁で続いている。原告のうちで多くを占める、福島市などの自主的避難等対象区域の賠償額を増額させる必要がある。そのため、新たな原告による追加提訴も検討している。

訴訟に参加することの難しい住民への救済水準の引き上げも実現すべく、国に法的責任があることを前提とした形での賠償基準の見直しや救済制度の具体化を求めていきたい。そのためにも、福島県や近隣県、福島県内外の自治体や議会、国会議員などに、早期救済を国に求めるよう働き掛けていきたい。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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