「六本木の高級ステーキ」運ぶタクシーの懐事情 収入減ったドライバーたちの救済策となれるか

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とはいえ、フードデリバリーで得られる売り上げは、「(タクシー事業全体の)数パーセントにも満たない微々たるもの」(木村氏)だ。国際自動車の田中氏も「コロナ禍でのマイナスを補完するためにやっている。大きな収益源になるとは思っていない」と話しており、まだまだ発展途上だ。

タクシー事業者にとって悩ましいのが、タク配の配送料の設定だ。ドライバーの売り上げを補填できるような料金に設定すると、利用数をなかなか伸ばせない。田中氏は「バランス調整が難しい。ドライバーからすれば1時間で3000円程度の売り上げが必要だが、料金を抑えないと利用者は増やせない」と打ち明ける。

最大の課題は「料金ルール」の設定

実際、同じ飲食店のデリバリーサービス内で、配送がタク配以外のサービスに流れてしまうケースもある。ラーメンチェーンの幸楽苑ホールディングスは、5月から福島県内のタクシー事業者と提携したタク配を始めた一方で、8月から注文単価が3000円を超えると、配送料が無料となる自社配送も開始。

そうしたこともあってか「(フードデリバリーサービスの利用は)現状、タクシーでの配送よりも(無料の)自社配送の比重が増している」(幸楽苑ホールディングスの広報担当者)というのが実情だ。

旅客のタクシー運賃には、行政の指定した上限と下限があり、タクシー事業者も原則その範囲内で競争してきた。ところが、タク配には目安となる配送料がない。物流論を専門とする流通経済大学の矢野裕児教授は、「過度な価格競争を避けるためにも、ガイドラインのような形でタクシー運賃に準じた料金体系を、行政の側である程度は設定すべき」と指摘する。

コロナ禍で生まれたタク配の制度は、タクシー事業者の救済を急ぐあまり、料金体系など制度の細部が詰め切れていない面がある。タクシー事業者からも「運ぶことのできる荷物の範囲など、タク配にはまだまだ曖昧なところが多く判断が難しい」(日本交通の木村氏)など、戸惑いの声もあがる。

救済策となるべきタク配が際限なき競争を起こして、さらなる事業者の疲弊を招かないよう、行政と業界が一丸となってルール作りを進めなければならない。

佃 陸生 東洋経済 記者

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つくだ りくお / Rikuo Tsukuda

不動産業界担当。オフィスビル、マンションなどの住宅、商業施設、物流施設などを取材。REIT、再開発、CRE、データセンターにも関心。慶応義塾大学大学院法学研究科(政治学専攻)修了。2019年東洋経済新報社入社。過去に物流業界などを担当。

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