生徒自ら考える「慶應高野球部」の凄すぎる教育 NTTでの勤務経験を監督業に生かす

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指示通りにプレーさせるのは、指導者のエゴだと言います(写真:m.Taira/PIXTA)
文武両道を実践し、2018年には激戦区神奈川県の代表として、春夏連続で甲子園に出場した名門・慶應義塾高校野球部。その監督を務める慶應義塾幼稚舎教諭の森林貴彦氏は、従来の伝統や形式に固執する「高校野球らしさ」に疑問を呈しています。
今回の後編では、慶應義塾高校野球部での指導方法とそのベースになる考え方について、森林氏の著書『Thinking Baseball』から抜粋・再構成してお届けします。
※前編『慶應監督が警鐘「高校野球で体罰」が消えない訳』はこちら

私が指導するにあたって、もっとも心がけているのは、選手の主体性を伸ばすことです。プロとして野球を続けられる選手はごくわずかですし、仮にプロ野球選手になれても、いつかは現役を引退しなければならず、監督や評論家になれるのはほんのひと握り。

つまり、野球から離れたときにきちんと勝負できる人間になっていることが大事なのです。

そのためには、高校野球を通して人間性やその人自身の価値を高めていかなければなりません。この重要な2年半、3年間を野球で勝つことだけに使っては絶対にいけない。野球にしか通じない指導は、「俺の言う通りにやれ」という方法が大半でしょうから、それはやはり指導者のエゴです。

「自分を客観視」できれば社会で通用する

社会で活躍できる人の共通点として挙げられるのは、自分を客観視できること。自分なりのアイデアを持ち、自分自身の強みを知り、それを伸ばす努力ができる人は、社会に出てどんな仕事に就こうとも通用します。

自分で自分の幸せを理解していることも大事です。これからの社会は多様性が重視され、人それぞれ追求する幸せが違う時代になっていきます。お金、家庭、仕事のやりがい……。多様な価値観の中で、何が自分を幸福にさせるかを分かっていないと、本当の幸せはつかめません。

つまり、集団の中にいて満足していると、皆と一緒にいることで生まれる相対的な価値観ばかりを重視するようになり、ふと一人になったときに、本当の幸せが分からなくなってしまうのです。大学受験や就職活動、人生の転機となる場面で、それはより顕著に表れます。

そういう大人にならないように、高校生の段階から、人生における自分なりの物差しを持つ準備をさせないといけません。それはつまり、考える力が自然と身に付くことや、人生の選択肢が増えることにつながります。

私自身も、大学卒業後は3年間NTTに勤め、法人営業を担当し、会社員を経験しています。野球からは大きく離れてしまった時期ですが、いま思い返せば、現在の高校野球の監督業につながる貴重な経験をさせてもらったと思います。

特に感じるのは一人の無力さ、そしてチームで協力し、調和を取りながら物事を進めていくことの大切さです。

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