引き取り手ない「お骨」が彷徨う家族遺棄の過酷 無縁仏と向き合う横須賀市職員が見た現実

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もう1つは、携帯電話の普及だ。携帯電話が固定電話の契約件数を抜いたのは2000年。電話をしても、連絡先がわからなくなったということが大きな壁となり、引き取り手のない遺骨は急増していく。そんな状況の中、さらに北見にとって、衝撃的な事件が2015年8月にあった。

「私死亡の時、15万円しかありません。」

それは横須賀市内在住で1人暮らしをしていたある男性の死がきっかけだった。ペンキ職人である佐藤幸作(仮名・79歳)は、癌になる78歳まで働いて、79歳の時に前立腺がんで亡くなった。佐藤の住むアパートには、Tシャツのパッケージに使われる厚紙が置かれていて、その裏にはこう書いてあった。

「私死亡の時、15万円しかありません。火葬と無縁仏にしてもらえませんか。私を引き取る人がいません」

佐藤には東北地方に住む妹がいたが、ほとんど交流がなかったため、連絡すると遺体の引き取りを拒否された。佐藤の通帳の中には25万円入っていたが、相続人は妹のため、そのお金を引き出すことはできない。北見は、まずいなと思った。

「僕らは他人だし、佐藤さんの場合、福島には妹がいるので、僕らは預金を下ろせないんです。遺書の発見される前に公費、つまり税金で彼のお骨は焼いてしまった。もちろん我々は税金で焼くときは、賛美歌も歌わないし、和尚さんにお経をあげてくれと頼むこともできない。つまり、我々が疑問に思ったのは、『仏』にしてくださいと書いてあるのに、『仏』にする手続きはやったのかと。15万円使ってくれと書いてあるのに、それを実行できたのか。

昔は、親族も近くにいるし、数もたくさんいた。だから誰かしらやってくれた時代があった。今は、親族の数が少なくなって、距離も離れたんです。だったら、そこの最後の部分を支えるのは役所がやるべきだと考え始めたんです」

役所の職員たちは一様に、男性を無縁「仏」にすることすらできないという事実に泣いた。あまりに男性の境遇を哀れんだ北見は、知り合いの僧侶に頼み込み、自腹を切って「仏」にすることにした。北見の尽力もあり、男性は、晴れて「無縁仏」になった。

しかし、やはり生前に本人の希望を聞くこと、それを実行するために行政がある程度本人と話し合っておくこと、その重要性を感じた出来事だった。

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