引き取り手ない「お骨」が彷徨う家族遺棄の過酷 無縁仏と向き合う横須賀市職員が見た現実
骨壺にはそれぞれ付表がついている。昔、そこには身元不明のため割り振られた番号ばかり書いてあった。いわゆる行旅死亡人といい、氏名や本籍が判明せず、さらに引き取り手がない遺体のことである。つまり、簡単にいうと行き倒れた人たちだ。しかし、今の骨壺の付表には、どれも人間の名前ばかりが並んでいる。
ここは、行き場のないお骨のいわば仮保管場所だ。お骨はここで3年間保管され、その間に市役所が懸命に親族を探す。しかし、その期間に引き取り手が現れるのは、年間に1人か2人。
誰も引き取り手がなければ無縁納骨堂へ
最終的に引き取り手がないお骨は、市内某所にある無縁納骨堂へと移される。
北見は、市有地にある無縁納骨堂も案内してくれた。そこは、入り口近くに、等身大のお地蔵さんが鎮座している静かな墓地の一角だった。シトシトと雨に濡れたお地蔵さんの前で、北見は目をつむり、固く手を合わせて、一礼する。そして懐中電灯を片手に、納骨堂の中にゆっくりと入っていく。私もそれに続いた。
真っ暗闇の中、北見の人懐っこい顔が浮かびあがる。
納骨堂のまん中には、銀色のパイプの棚が配置されていた。北見の懐中電灯に照らされて、怪しく光を帯びている。四段ほどの台の上には、所狭しと大小様々な骨壺が並んでいる。立方体の桐製骨箱のものが多い。
菊の刺繍が施されたシルバーの骨箱カバーに挟まれたゴールドの骨箱カバーが懐中電灯に照らされて、怪しく光を帯びる。ここにあるのは、市役所で一定期間引き取り手を待っていたものの、結局、誰も引き取り手が現れなかった骨たちだ。
「役所からここに持ってくるのはやろうと思えば、職員たちみんなでやれば一瞬で終わるの。だけど、ここに持ってきちゃうと、もうここで終わりという感じがする。1月にやろうかとか、12月にやろうかとか思ってるけど、なかなか腰が上がらない。持ってきちゃうとさ、もうねーという感じでしょ。みんな着手したがらないんだよ」
北見は寂しそうにそう言ってうつむきながら、苦笑した。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら