「10社以上でクビ」発達障害46歳男性の主張 上司から「高卒より使えない」と叱責され続けた

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障害年金は、初診日に加入していた年金が国民年金か厚生年金かで、対象範囲や受給金額に違いがある。障害年金の等級は障害の重さに応じて1―3級まであるが、3級があるのは厚生年金だけ。金額も1級の場合、国民年金は月額約8万1000円なのに対し、厚生年金は加入期間によっても異なるが、月額で15万円を超えることもある。

アキオさんの場合、診断日は厚生年金だったが、初診日は失業中で国民年金に加入していた。初診日をさかのぼってもらったことが、あだとなったわけだ。障害者手帳と障害年金の等級の判定方法は別だし、手帳がなくても障害年金の申請をすることはできる。ただアキオさんの障害者手帳は3級。年金受給には、国民年金の「障害基礎年金2級」の判定を得る必要があるが、医師からはそれに相当する診断書を書くことは難しいとの説明を受けている。

「障害者雇用の給料は高くはありません。わずかでも障害年金で補えると、少しは安心できるのですが……。(身体障害などと違って)発達障害の症状は基本的に変わらないと思うんです。初診日に加入していた年金の種類によって、ここまで手厚さに違いがあるのは、納得ができません」

「せめて同じ場所で息をすることを許してほしい」

アキオさんにはファミリーレストランで話を聞いた。質問に対する答えはとても的確で流暢だった。一方でアキオさんは注文したドリアにいつまでも手を付けなかった。私が何度「冷める前に食べてください」と勧めても、スプーンを手に取ろうとしないのだ。話すことと、食べることの2つを同時にこなすことが難しい様子だった。

食べながら話す、ということが難しい様子のアキオさん。ようやくスプーンを手にしたのは、ドリアが出されてから1時間以上が過ぎたころだった(筆者撮影)

また、取材後、アキオさんからは「取材時説明内容の補足」と題した長いメールが何通か届いた。上司らの発言のささいなニュアンスの訂正のほか、障害に対する配慮をしてくれたり、飲みに連れて行ってくれたりした上司もいたので、会社のことをあまり悪く書かないでほしいといったことがつづられていた。初診日をさかのぼってくれた医師についても迷惑がかからないよう、書き方に配慮してほしいとリクエストされた。

そのたびに返事を書かなければならない私にしてみると、効率という点では決してよいとはいえなかった。一方でアキオさんの優しい人柄も伝わった。ただ10社以上も転職せざるをえなかったキャリアを考えると、こうした誠実さは現在の社会や会社が求めるものではないのかもしれないとも思う。

発達障害の人の生きづらさについて記事を書くと、時々「発達障害の上司や部下を持つほうの身にもなってほしい」といった感想が寄せられることがある。そうした主張を理解できないわけではない。ただ、発達障害の同僚を持つ大変さに共感できたとしても、結局、社会がたどり着く先にあるのは“排除の理論”なのではないか。

アキオさんは記事を通してこう伝えてほしいという。

「面倒かもしれませんが、社会に居場所をつくってもらえると助かります。私のことを理解してほしいとは言いません。せめて同じ場所で息をすることを許してほしい」

本連載「ボクらは『貧困強制社会』を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
藤田 和恵 ジャーナリスト

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ふじた かずえ / Kazue Fujita

1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか。

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