クビと仕事探しを繰り返す生活に疲れはてていたアキオさんは、障害者雇用枠で働くためにできるだけ早く障害者手帳を取得したいと考えていた。本来、手帳の交付には初診日から6カ月以上経過していなければならない。診断を出してくれた医師に相談したところアキオさんの通院歴を基に、可能な範囲で初診日をさかのぼってくれたという。
早速、ある有名企業に障害者雇用枠で転職。ただ、その後も順調というわけにはいかなかった。実は今年6月に雇い止めにされたのは、この企業のことだ。1年更新の契約社員で勤続7年あまり。アキオさんのキャリアの中では最も長く働いた会社だった。
アキオさんはここでも作業時間の短縮などについてノルマを課されたが、結局改善ができず、雇い止めを示唆された。これに対し、普段から新聞を読んでいたアキオさんは労働契約法に基づく「無期転換ルール」の知識があったので、ダメもとで会社に無期転換の申し込みをしてみたという。無期転換ルールとは、有期雇用契約を更新して通算5年を超えると、無期契約への転換を求めることができるというものだ。
結局、抵抗むなしく雇い止めの決定は覆らなかった。しかし、本来無期契約申込権は5年を超えた時点で自動的に発生する権利であり、申し込みを受けた会社側は拒否することはできないとされている。会社がアキオさんをクビにするなら、いったん無期契約社員にしたうえで解雇をするのが、法律の趣旨に沿った対応のはずだ。
「国民年金」と「厚生年金」の大きな壁
アキオさんの月収は約15万円と決して高くはなかった。一方で障害者を雇用する企業にはさまざまな助成金制度など直接的なメリットも多い。会社は障害者を使い捨てたと言われても仕方がない。上司たちには後ろめたいことをしているという自覚があったのかもしれない。アキオさんは退職にあたり「一連の経緯を第三者に明かさない」といった旨の守秘義務を盛り込んだ合意書に署名するよう、求められたという。
アキオさんは現在、失業保険を受けながら仕事を探している。年齢的に就職活動が厳しくなるにつれ、不安になることがあるという。発達障害に関する初診日の時点で加入していたのが国民年金だったことから、障害年金の受給が難しいのではないか、ということだ。
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