中国が「原子力はクリーン」と推進しまくる事情 原発新設加速、輸出政策強化で国益を追求

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原子力の国際展開は単なる商業活動ではなく、重層的に国際安全保障とも密接に関わってくる(写真:IG_Royal/iStock)

米中貿易戦争により幕を開けた、国家が地政学的な目的のために経済を手段として使う「地経学」の時代。

コロナウイルス危機で先が見えない霧の中にいる今、独立したグローバルなシンクタンク「アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)」の専門家が、コロナウイルス後の国際政治と世界経済の新たな潮流の兆しをいち早く見つけ、その地政学的かつ地経学的重要性を考察し、日本の国益と戦略にとっての意味合いを、順次配信していく。

欧州の「脱原発」方針と新興国の原子力需要

福島原発事故後、原子力産業を取り巻く環境は複雑だ。日本では明確な原子力政策が示されないまま時間が経過し、ドイツやベルギー、韓国や台湾は、現在、原発を保有するものの、将来的には脱原発の方針を定めている。欧州は、新型コロナウイルスによって受けた経済の打撃を回復する道筋に「気候変動対策」や「脱炭素」を中心に据える「グリーン・リカバリー」を推進するため、包括的回復計画を示したが、主流化された再生可能エネルギーとは対照的に、そこに原子力発電の存在感はなく、欧州全体では原子力発電への依存度を下げる「脱原発」の傾向が強まっている。

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他方で、実は世界全体で見れば、新興国では経済発展、電力需要の増加が著しく、少量の燃料で大きなエネルギーを取り出すことができ、かつ温室効果ガスを排出しない原子力エネルギーの需要は、拡大の傾向にある。なかでも中国では、原子力の発電電力量が2040年には約9倍(1350億kWh→1兆2000億kWh)と、著しい増加が予想されている。

中国の1次エネルギー消費量の構成は、2040年までに、化石燃料への依存が大幅に減少し、石炭35%、石油18%、ガス7%、再生可能エネルギー27%、原子力7%程度になると予測されている(2019年時点で原子力は2%)。

また今後の傾向として、計画中、提案段階のものを含めれば、中東における原子力への関心の高まりも注目に値する。IAEA(国際原子力機関)による2013年の予測では、中東・南アジア地域では、2012年の時点で原子力発電容量は600万キロワットあり、2030年には4.5倍から9倍の増加が見込まれ、新興国を中心に原発の新増設は今後も続くことが予測されているのである。

とくに近年、中国における原子力発電施設建設の勢いが加速している。中国でも、福島原発事故後、原子力産業は深刻な打撃を受けた。数年間原発新設の認可がなかった時期もあるが、2019年より再開、同年には福建漳州原発の1・2号機、広東太平嶺原発の1・2号機の建設が相次いで認可され、いずれも中国独自開発の第3世代原子炉「華龍一号」が採用された。

(参考:日本の原発の炉型の多くは第2世代と呼ばれる、1970~1990年代に開発された技術。柏崎刈羽原発6・7号機は第3+世代炉を導入、敦賀発電所3・4号機も第3+世代炉を導入予定だが、現在工事停止中)

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