中国半導体「SMIC」に米政府が輸出規制を発動 軍事転用可能な品目対象、深刻な影響不可避に

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半導体チップの製造にはアメリカ製の設備や原材料が不可欠だ。写真は上海市にあるSMICの社屋(同社提供)

中国の半導体受託製造(ファウンドリ)最大手の中芯国際集成電路製造(SMIC)は10月4日、「アメリカの輸出規制に関する追加情報」と題する声明を発表。アメリカのサプライヤーの一部が半導体の製造装置や原材料をSMICに供給する際、アメリカ商務省の事前の輸出許可が必要になったと明らかにした。

SMICに対する輸出規制を巡っては、アメリカ商務省産業安全保障局がサプライヤーに送付した書簡の存在を欧米メディアが9月26日に報じていた。今回の発表は、それを同社が公式に確認した格好だ。声明文によれば、一部の設備や原材料の供給が遅れるなどしてSMICの生産や経営に深刻な負の影響が生じる可能性があるという。

アメリカ政府は2019年以降、通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)や監視カメラ大手の海康威視数字技術(ハイクビジョン)など中国のハイテク企業を次々にエンティティー・リスト(訳注:アメリカの安全保障や外交政策上の利益に反すると判断された企業等のリストで、事実上の禁輸対象)に追加してきた。しかしSMICに対する今回の規制は、対象範囲が軍事転用可能な特定の品目に限られている。

禁輸リストへの追加には慎重との見方も

「エンティティー・リストに追加されるよりはましで、まだ最悪の状況とは言えない」。財新記者の取材に応じたアメリカの半導体業界の関係者は、そうコメントした。もしSMICがエンティティー・リストに追加されれば、アメリカ由来の技術が使われたすべての設備や原材料が禁輸の対象になるからだ。

とはいえ、輸出規制の発動により同社が大きな困難に直面するのは不可避だ。中国の半導体業界に詳しい専門家によれば、半導体製造装置世界最大手のアプライドマテリアルズを筆頭に、製造装置だけでもシリコンウエハーのエッチング、洗浄、酸化拡散、イオン注入、薄膜形成、検査などの各工程でアメリカ企業が大きなシェアを占めるという。

仮にアメリカ政府がSMICへの制裁をエスカレートさせた場合、その打撃は同社のアメリカの顧客にも及ぶ可能性がある。SMICの決算報告書によれば、2020年4~6月期の売上高の21.6%はアメリカ企業から受託した半導体の製造によるものだった。

本記事は「財新」の提供記事です

SMICは具体的な顧客名は公表していないが、アメリカのクアルコムが大口顧客の1社であることは業界内で広く知られている。「クアルコムが委託先の変更を検討したとしても、実行には時間がかかる。アメリカ政府はこうした実情を考慮し、SMICのエンティティー・リスト追加には慎重に対処するのではないか」。ある専門家はそんな見方を示した。

(財新記者:何書静)
※原文の配信は10月4日

財新 Biz&Tech

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