子育てセーフティネット「病児保育」に存続危機 65%が赤字、補助金減少で閉室する施設も

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コロナ禍における事業継続のための国の給付金として持続化給付金がある。しかし、病児保育施設はすぐには受給できない可能性がある。持続化給付金の受給要件は、前年同月比で収入が5割以上減少することだ。利用者の減少により、病児施設への補助金は後日返還を命じられることがある。そのため、持続化給付金の受給要件である5割以上の収入減少が、半年から1年後に判明することが懸念される。

小児科が担う子育て支援は病児保育だけではない。子どもへの虐待を発見して福祉につなげたり、行政からの要請で虐待児童を一時的に受け入れたりすることもある。また、在宅で家族が介護している子ども(医療的ケア児)を預かるレスパイト入院も重要な役割だ。

「救急患者の入院は年々減っているが、虐待児童の入院やレスパイト入院の割合は増えている。こうした患者はコロナ禍でも減っていない」と、前出の太陽こども病院の木内院長は言う。

変わらない赤字の構造

育児をする家庭を孤立させないことも、小児医療機関が担ってきた役割だ。「病児保育は病気のときだけではなく、親が困っているときにどう手助けするかという役割がある」と中野こども病院の木野理事長は言う。

全国病児保育協議会は6月、厚労省に要望書を提出。「補助金が支出を上回れば返金する制度のため、繰越金による内部留保は認められていない。財政的余裕がなく、赤字支出になったときにそれを補う自己資金がない。そのために事業継続の中止に至ることになる」として支援策を求めている。

こうした要望を受け、内閣府と厚労省は7月10日、加算単価(補助金)を前年同月の利用者数を上限に補助するように都道府県などに通知した。その期間は4~9月までと限られていたが、9月末に再度通知が出され12月まで延長することになった。

しかし、病児保育の赤字になりやすい構造は、特別措置を延長しても変わらない。通常時ならば病児保育への貢献度が高い定員や職員の数が多い施設ほど、今回の利用者の激減によって固定費がかさみ、赤字幅は大きくなる。

病児保育を維持するには、ある程度の利用者の増減に左右されない安定的な収益構造が必要だ。「子育てのセーフティネット」を守ることができるのか。コロナがその課題を突きつけている。

井艸 恵美 東洋経済 記者

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いぐさ えみ / Emi Igusa

群馬県生まれ。上智大学大学院文学研究科修了。実用ムック編集などを経て、2018年に東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部を経て2020年から調査報道部記者。

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