疲弊する「ドキュメンタリー番組」制作現場の闇

「追撮地獄」に悩まされるテレビ報道の職人たち

こう話すのは、ノンフィクションが得意な制作会社のプロデューサーをしているDさん。経済系の有名ノンフィクション番組をいくつも制作したことがある。とある有名作家がキャスターを務める番組では、よくこんな「災難」に見舞われることがあるという。

「あの番組では、あらかじめ局のプロデューサーと打ち合わせをして、それに基づいて企業などの取材・撮影に行きます。そして取材が終わったあと、スタジオ部分を収録するのですが、収録2日前にキャスターをしている作家さんと打ち合わせをするんです。

取材してきた内容を作家さんにご説明するのですが、そうするとだいたい毎回作家さんが『そんなことより僕はこういうことに関心があるんだ』とか『以前僕がその会社の人に話を聞いたときには、こんなことを言っていた。そういう内容はないの?』とか言い始めます。すると、局のプロデューサーも、『そうですね。それでいきましょう』とか言うんですよね(笑)。

とはいえ、スタジオ収録2日前ですから、追撮は間に合いません。『こういう内容のVTRが流れたと想定して、それを見た体で感想をお願いします』ということでスタジオは収録します。そしてそのあと、その想定VTRに合わせる形で再びロケに行くんです。最初に撮影した取材VTRはほとんどパーになりますから赤字ですよ。なぜ初めに作家さんと打ち合わせしてから取材させてくれないんだ!といつも腹が立ちます」

NHKがドキュメンタリーの"最後の楽園"

フリーランスでディレクターをしているEさん(40代後半)は、ドキュメンタリスト。制作会社を通していろいろなドキュメンタリー番組に企画を持ち込んで生計を立てているのだが、生活は厳しいという。

「ほとんどのドキュメンタリー番組は、まさに『追撮地獄』です。『あ、ちょっとこういう要素が足りないから、もう少し粘ろうか』と言われて追撮へ、の繰り返し。かつて某局のドキュメンタリー番組に悪名高いプロデューサーがいたのですが、あの人のころは本当に『あと何年撮り続ければ放送してもらえるんだろうか』と頭がおかしくなりそうでした。

ディレクター仲間で『俺は●年かかった』とか、笑い話として飲みの席でよく話してましたよ。今はもうドキュメンタリー番組には大手制作会社はほとんど企画を出しませんね。ほぼ必ず赤字になりますから」

追撮地獄の問題以外にも、Eさんは最近、ドキュメンタリーやニュース特集を制作するときに「やりづらい」と感じることが増えてきているという。その1つが「コンプライアンス」の問題だ。局側のチェックが厳しくなりすぎていて、取材が事実上難しくなっているテーマもあるというのだ。

「例えば『迷惑な行為をする人』を撮影して、住民たちが困っている現状を伝えるようなテーマは、ニュース特集では定番です。しかし、最近は局の担当者のチェックが厳しくなりすぎてしまって、『迷惑な行為をしている人には必ず注意をしてください。そうしないとその映像は使えません』みたいなことを言われるので、せっかく決定的瞬間を撮影してもその映像が使えなくなってしまうのです。

コンプライアンスもいいんですが、全力疾走する暴走自転車とかどうやって注意するんだよ?と思いますし、何日も張り込んでせっかく撮影したものを『あ、使えませんね』で済まされると悲しくなります」

民放各局で制作予算の削減が顕著になり、ノンフィクション系の番組枠やニュース特集が減少していく中で、ノンフィクションDの拠りどころとなっているのがNHKだ。NHKはノンフィクション系の枠も多く、比較的制作予算も潤沢なので赤字になる心配も少ないからだという。

しかし、NHK独特の「やりづらさ」も存在すると、ノンフィクションDたちは声をそろえる。

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