EUに乱暴な揺さぶりをかけた英ジョンソン首相 終わらないブレグジット、貿易協定の期限迫る
英国はどの物品が高リスクかを独自に判断できる法案の準備を進めている。今回の法案ではこれ以外にも、北アイルランドの企業が英国本土に出荷する際の輸出申告書の提出を免除することや、英国が北アイルランド企業に補助金を提供する場合にEUの関与を弱める内容が盛り込まれている。
英国が今になって離脱合意の一部を無効化する法律を準備した背景には、このまま貿易協定で合意できずに移行期間が終了した場合の準備作業としての意味合いだけでなく、膠着する貿易協議を前に進める狙いがある。
英国とEUが関税なしの貿易協定を締結すれば、北アイルランドでの関税の代行徴収は必要なくなる。つまり、離脱合意の内容を英国が一方的に書き換えるのを阻止するには、英国とEUが貿易協定で合意する必要がある。かなり乱暴な方法ではあるが、今回の法案はEU側に対して合意を促す呼びかけでもあるのだ。
強硬離脱派をバックに高めの球を投げる戦略
また、強硬離脱派に支持されたジョンソン首相が、EU側に安易な妥協をすることは許されない。今後の妥協に向けて、あえて高めの球を投げて最終的な着地点を引き上げることや、強硬離脱派からの批判を和らげる戦略と考えられる。
ロシアや中国の法軽視を批判してきたEUが、国際合意を踏みにじる英国の法案を許容するわけにはいかない。EU側は国際法違反として、英国が月内に法案を撤回しないかぎり、法的措置を開始するとしている。英国内からも同法案が法治国家の根幹を揺るがし、対外的な信用を損なうとして、野党のみならず、歴代の首相経験者、与党の党首経験者や有力議員からも批判の声が相次いでいる。
ジョンソン首相は党内の亀裂が深まることを警戒し、離脱合意を上書きするかどうかを議員の投票で判断する修正動議を受け入れたが、法案採決を進める方針に変わりはない。法案は委員会での逐条審議を終え、月内には下院を通過するとみられる。
英国政府は上院での法案審議の開始を10月15・16日の欧州首脳会議後に遅らせる意向を示唆している。英国とEUは10月の首脳会議を貿易協定の合意期限に設定している。上院での議会審議を先延ばしして、貿易協議が佳境を迎える最中の全面衝突を避けるとともに、法案審議をEUからの妥協を引き出す駆け引きに使う意図も見え隠れする。
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