EUに乱暴な揺さぶりをかけた英ジョンソン首相 終わらないブレグジット、貿易協定の期限迫る
英国のEU(欧州連合)からの離脱問題が再び混迷の様相を呈している。1月末にEUを正式に離脱した英国は、年末までの移行期間中にEUとの間で新たな将来関係協議の合意を目指している。だが、産業補助金に関するEUルールの受け入れの是非や英国領海でのEU漁船の操業継続をめぐって、協議が暗礁に乗り上げている。
このまま移行期間中に貿易協定を締結できなければ、来年以降、英EU間の貿易はWTO(世界貿易機関)が定める最低限のルールに基づいて行われる。双方の貿易取引に関税が発生し、国境を越えたサービス取引や個人情報保護などのデータ移転にも制限が掛かるおそれがある。「合意なき離脱」を回避したはずの英国に、「貿易協定なき移行期間終了」の崖が迫っている。
奇襲作戦に出たジョンソン首相
膠着する協議の打開を目指し、ジョンソン首相は新たな奇襲戦法に打って出た。英国とEUが離脱に当たって交わした離脱協定の一部を書き換える法案を準備したのだ。「離脱実現」を掲げて首相に就任したジョンソン氏は、昨年秋に北アイルランドを英国本土から事実上切り離す新たな離脱合意をEUと交わした。今回の法案はその一部を一方的に書き換える内容で、国際法違反に相当するとして国内外から厳しい批判にさらされている。
問題は1960年代後半に始まった北アイルランド紛争にさかのぼる。離脱後の英国がEUと唯一陸続きで接するのが、北アイルランド(英国の一部)とアイルランド(1930年代に英国から独立したEU加盟国)の約500キロメートルの国境線だ。かつて北アイルランドではカトリック系住民とプロテスタント系住民の間で武力闘争が繰り広げられ、1998年の和平合意で南北アイルランド間に物理国境を設置することが禁じられた。この見えない国境が関税や規制の抜け道になることをEUは警戒する。
そこでジョンソン首相は昨年秋に急転直下の離脱合意を目指し、南北アイルランド間に物理国境を設けず、モノの流れを管理する解決策として、離脱後の北アイルランドのみにEUの関連規則や関税を適用することを提案した。
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