精神医学・心理学、社会科学一般、経済・経営の3分野の惨状
精神医学・心理学では、日本トップの東京大学が、ノミネートされている全432機関中322位、社会科学一般ではやはり東京大学が日本トップで全825機関中275位と、トップ100に入りそうな機関がありません。経済・経営に至っては、ノミネートされている全212機関中に日本の研究機関0(ゼロ)という惨状です。すなわちこれらの分野では、我が国にはトップ100に入りそうな研究機関すら存在しないと言うことができます。
ここで、少なくともビジネスについて言えば、精神医学・心理学と社会科学一般分野に強力な研究機関がないことはそれほど深刻な問題ではないのではないか、と考える人もいらっしゃるかもしれません。
しかし、実は精神医学・心理学と社会科学一般分野はかなりビジネス、経営と深く関係しています。まず、精神医学・心理学ですが、職場環境が人に与える心理的影響や、職場での人間関係などの研究は応用心理学の学術誌に数多く発表されていますし、消費者心理なども心理学の分野で扱われています。
昨年NHKで、コロンビア大学ビジネスルクール教授のシーナ・アイエンガー氏の講義を紹介した番組が放送されました(『コロンビア白熱教室』)。
アイエンガー教授はジャム(イチゴジャム、リンゴジャムなどの食べるジャムです)を用いた消費者心理・購買行動などの研究で有名な方です。彼女の書いた本は日本語にも翻訳されているので、読者の中には、その本(『選択の科学』〈文藝春秋、2010年〉)を読まれた方もいらっしゃるかもしれません。
アイエンガー教授は、自身の研究成果をマーケティングや組織行動などを主な対象とした経営学の学術誌と心理学の学術誌にほぼ半々に発表しています。
社会科学一般は、そのカテゴリー名から想像されるように多岐の分野を含んでいますが、企業倫理や技術者倫理、CSR活動などの企業の社会性に関わる研究成果は、この分野に分類されている学術誌に数多く掲載されています。
私の知人で、倫理的な意思決定も感情の影響を受ける、と唱えて注目されているオランダのデルフト工科大学サビーネ・ローザー准教授が研究成果を発表しているのは、この社会科学一般に分類されている学術誌です。そして、彼女が所属しているのは哲学専攻(Philosophy Department)であり、哲学専攻は技術・政策・マネジメント研究科(Faculty of Technology Policy and management)の中にあります。無理矢理日本語に訳せば、技術経営政策大学院、という感じでしょうか。
ここで注目して欲しいのは、アイエンガー教授もローザー准教授も、所属しているのがビジネススクール、もしくはビジネスを教えている大学院であるという点です。
すなわち、企業活動に関する研究は経済・経営分野にとどまらず、精神医学・心理学、社会科学一般分野にまで広がっており、欧米のトップにあるビジネススクールもしくは技術経営政策大学院は、そうした分野を統合的に扱っているということです。そして繰り返しになりますが、この3分野のいずれでも、日本には世界トップ100に入りそうな研究機関がないのです。
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