日本人が「教育格差すら許容している」衝撃事実 家計が教育投資できるか否かが子の将来を左右

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子どもの貧困率が高いのは、結局のところ親の貧困によって生じる現象である。その親は、さらに自らの親(すなわち祖父・祖母の世代)が貧乏だったので高い教育を受けられず、結果として貧困に甘んじざるをえなかったのかもしれない。こうして、結果の格差と機会の格差が世代間で連鎖していく。

以上をまとめると、日本人の多くは自分の子どもに対する私的な教育投資には熱心であるけれども、それを社会全体に還元することには関心をあまり持っておらず、また一部の低所得の親は私的な教育投資を行う経済的な余裕すらない、となる。

教育費は国民全体で負担すべきか

教育機会のない人への教育費支出の増加策は、国民一般の教育水準、あるいは生産性を上げるので好ましいという意見があるし、筆者もこれに賛成である。

しかし、能力がそもそも低い子どもに教育費をかけても、効果が期待できないのであれば、国家がそこに多大な教育費をかけるのに反対であるという意見は根強い。残念ながら、教育の効果を社会全体で享受するのではなく、教育投資をした人、あるいはそれのできる人だけが享受するものだと考える人が多い、ということである。

それは日本政府の姿勢としても表れており、家族関係社会支出に如実に示されている。下の表は、主要先進国における統計をまとめたものである。

家族関係社会支出の対GDP比率 (出所)「平成27年度 厚生労働白書」より作成

家族関係社会支出のGDP比率は、政府がほとんど何もしないアメリカが最低の0.72パーセント、日本は下から第2位の1.36パーセントである。特筆すべきはスウェーデンの3.46パーセントとイギリスの3.78パーセントで、福祉国家のスウェーデンよりもイギリスのほうが、家族関係社会支出が多いのは意外に思える。

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どのような内容の支出を家族関係社会支出としているのか、また、その内容は国によって異なるのかといったことについて興味は湧くが、ここでは深く追求しない。日本の就学前教育・保育と家族手当への支払い額が他国と比較してかなり低いこと、そしていわゆる「子ども手当」の少なさが国際比較のうえからも確認できることが重要である。

いずれにしても子どもの貧困をなくし、教育格差を小さくしようと考えるのならば、教育への政府支出の財源を確保する余裕を持つようにしなければならないだろう。なぜなら能力がそもそも低い子どもであっても、教育によってある程度の効果が見込めるということが、数々の研究によって明らかになってきているからである。

もっとも教育への政府支出を増額する余裕を政府がもつには、まずは低成長経済からの脱出が肝心かもしれない。だが、そのことを論じるのが本稿の目的ではないし、紙面も多く必要とするので別の機会に考えたい。

橘木 俊詔 京都女子大学客員教授、京都大学名誉教授

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たちばなき としあき / Toshiaki Tachibanaki

1943年生まれ。小樽商科大学卒業、大阪大学大学院修士課程修了、ジョンズ・ホプキンス大学大学院博士課程修了(Ph.D.)。大阪大学、京都大学教授、同志社大学特別客員教授を経て、現在、京都女子大学客員教授、京都大学名誉教授。その間、仏、米、英、独の大学や研究所で研究と教育に携わり、経済企画庁、日本銀行、財務省、経済産業省などの研究所で客員研究員等を兼務。元・日本経済学会会長。専攻は労働経済学、公共経済学。
編著を含めて著書は日本語・英語で100冊以上。日本語・英語・仏語の論文多数。著書に、『格差社会』(岩波新書)、『女女格差』(東洋経済新報社)、『「幸せ」の経済学』(岩波書店)ほか。

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