アビガンがコロナに劇的に効く薬ではない現実 あれだけ注目されたその後はどうなっているか

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催奇形性問題で揺れたアビガンの承認可否を検討する厚生労働省薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会での本格審議が始まったのは、富山化学工業の製造承認申請から2年10カ月も経た2014年1月末。

その結果、同部会での承認了承に際して適応は季節性インフルエンザではなく、「新型または再興型インフルエンザウイルス感染症(ただし、ほかの抗インフルエンザウイルス薬が無効または効果不十分なものに限る)」とされ、パンデミック発生時に国が出荷の可否を決め、承認条件としてさらなる追加臨床試験の実施を求められた。

しかも、追加試験のデータ承認までは試験用以外の製造は禁止。さらに流通に際してはサリドマイド同様の厳格管理を課されることになった。

実際、今回の新型コロナ対策として患者を受け入れた医療機関の一部にはアビガンが納入されたものの、それ以前は国の新型インフルエンザ対策での備蓄用以外では製造は行われておらず、どこの医療機関にも在庫すらなかったのが実際だ。

ある関係者は「国内患者数が1万4000人程度の多発性骨髄腫へのサリドマイド処方と違い、インフルエンザ治療薬はひとたびパンデミックが起これば、数百万人単位で処方される可能性がある。たとえ厳格な流通管理制度を設けたとしても、対象患者が多いほど制度を運悪くすり抜け、被害者が出る危険性も想定しなければならず、医療機関に常時在庫がある状態にはとてもできなかった」と当時の状況を振り返る。

あえてアビガンを承認したワケ

もっとも「そこまでして承認する必要はなかったのでは?」という見方もあるだろう。実際、海外などでは承認申請後の審査でもめた際に製薬企業側が自主的に承認申請を取り下げることもある。

この背景には当時最も使われていたインフルエンザ治療薬のタミフルをめぐる事情も影響していた。まず、タミフルは頻用されている結果として、全体のおおよそ1~2%とはいえ薬剤耐性ウイルスが確認されていた。

これに加え、タミフルの製造原料は中国南部からベトナム北東部にかけた地域を原産とする植物トウシキミ。その実は中華料理などの香辛料で使われる八角として知られている。つまり原料調達時は香辛料需要と競合し、なおかつ自然物のため、パンデミック発生時に生産急増が必要になっても原料の大量調達が容易ではないという問題も抱えていた。

これに加え、前述した新型インフルエンザ対応を見越したアビガンの利点もあり、過去にない制限を付けても承認する必要があったとみなされたといわれている。

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