アビガンがコロナに劇的に効く薬ではない現実 あれだけ注目されたその後はどうなっているか

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では、実際、現場で診療にあたっている医師の実感はどうなのだろうか? 首都圏の病院に勤務する感染症専門医が次のように語る。

「アビガン服用後に症状が改善したように見える患者もいますが、ほとんどが自然経過で回復していたとしても不思議ではないケースで、個人的にはこの薬で劇的な効果を感じた患者はいないのが正直なところ。もう1つ感じているのは、重症の肺炎に至った患者に投与して効果があったとは思えないということ。

一方で、従来から催奇形性の問題は指摘されていますし、多くの人で一時的に尿酸値が高くなる副作用があって、この場合もともと尿酸値が高めの高齢者ほど使いにくい。実際、現在ではほとんど使いません。強いて言うなら、メディアの影響で『アビガンを使ってください』とどうしても食い下がる患者さんに慎重に投与するという感じでしょうか」

藤田医科大学による臨床試験は好調な結果を収められなかったが、現時点で富士フイルムが主導する新型コロナに対するアビガンの臨床試験は継続中である。その点では今後治療薬として承認される可能性がないわけではない。

ちなみに富士フイルムが行う臨床試験は新型コロナに感染し、重症ではない肺炎に至った患者が対象。参加患者を2つのグループに分けて、両グループともに標準的な肺炎治療を行ったうえで、一方のグループにはアビガン、もう一方のグループにはプラセボをそれぞれ最長14日間上乗せ投与する。そのうえで、PCR検査で陰性になるまでの期間を両グループで比較する。

結局のところ特効薬ではない

3月から始まった臨床試験だが、一時期感染者が減少したことで進行が停滞。7月以降の感染者増加により参加患者数が増加し、最終的な参加患者は約100人で今月中旬には終了する予定だ。この結果が良好、すなわち統計学的に有意な差が認められれば、現下の新型コロナの治療薬がほとんどない状態では、厚生労働省が迅速承認に踏み切る可能性は高いだろう。

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ただ、もし富士フイルムが主導する臨床試験で統計学的に有意な差が示されたとしても、この試験のデザインを考えれば「通常の肺炎治療に追加した場合、治るまでの期間が数日間は短くなる」という程度のもの。もっともこの点は医療機関にとっては、一部の重症でない新型コロナ肺炎患者の入院期間短縮につながり、ベッド不足による「医療崩壊」への歯止めにはなる。

これら今のところわかっている情報を総合すれば、アビガンは単独で死の危機に瀕するほど重症の新型コロナ患者を救い出すほどの「特効薬」ではないということであり、この薬が仮に今後承認されたとしても、多くの人にとって感染予防が何よりも重要であるという現実は何も変わらないということである。

村上 和巳 ジャーナリスト

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むらかみ かずみ / Kazumi Murakami

1969年宮城県生まれ。中央大学理工学部卒業後、薬業時報社(現・じほう)に入社し、学術、医薬産業担当記者に。2001年からフリージャーナリストとして医療、災害・防災、国際紛争の3領域を柱とし、『週刊エコノミスト』、講談社Web「現代ビジネス」、毎日新聞「医療プレミア」、『Forbes JAPAN』、『旬刊医薬経済』、「QLife」、「m3.com」など一般誌・専門誌の双方、ネットで執筆活動を行う。2007~2008年、「オーマイニュース日本版」デスク。一般社団法人メディカルジャーナリズム勉強会運営委員(ボランティア)。著書に『化学兵器の全貌』(三修社)、『ポツダム看護婦(電子書籍)』(アドレナライズ)など、共著に『がんは薬で治る』(毎日新聞出版)、『震災以降』(三一書房)など。

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