技術進歩の最善の努力は悲惨な結果を起こしうる--『新版 日本経済の事件簿』を書いた武田晴人氏(東京大学大学院経済学研究科教授)に聞く

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技術進歩の最善の努力は悲惨な結果を起こしうる--『新版 日本経済の事件簿』を書いた武田晴人氏(東京大学大学院経済学研究科教授)に聞く

「歴史本」に注目が集まっている。本書は近現代の日本経済史から17話を抜き出したものだが、政治や社会の多様な文脈の中で、著者の視線は「現代的な含意」「真相」に注がれる。

--幕末の開港からこの本の記述は始まりますが、明治維新そのものの章はなく、地租(年貢)改正、明治14年政変と続きます。

明治維新を取り上げるより地租改正がいいと。なぜ土地税制がいいのか。かつてはそれがいちばん重要だったからだ。税が国の骨格を決める。近代国家の条件の一つだが、それだけではない。地租改正に至る一連の改革は大名や武士の土地に対する権限・権利をすべて否定して、農民に納税者として土地所有権を認めた。税はいわば国のフトコロ具合を決めていく。

次の節目になるのは明治14年政変。これも財政改革、さらにデフレ政策と絡む。時代として面白いし、政治史的にも自由民権運動が完全に潰れる政変だった。日本史の研究の世界では明治維新の終期は通説的には明治14年の政変まで。この政変で大隈重信が失脚して松方財政になり、伊藤博文がいわば国権的、専制的な指導力を確立して、「戦前的な政治体制」の仕組みが一応できる。

--次の二つの章は、産業化の光より影を書く……。

もともと、たとえば紡績業が発展したとか生糸が輸出拡大したとか、これは事件としてとらえにくい。しかも、あるとき急に起こったのではなく、ゆっくりした変化。また事実の説明も容易。むしろ産業化の光の裏側をきちっと見ようとした。

一つは、足尾鉱毒事件。公害の問題を議論しているが、伝えたかったのは、当事者たちは悪意でやっていたわけではないことだ。技術進歩に必死に取り組み、最善を尽くしていくと結果は最悪だった。それは今でもありうる。技術を進歩させる最善の努力はマクロ的には悲惨な結果を起こしうる。効率性だけを追求していくと、鉱毒事件のようなことも起こる。それはすでに経験済みなのだ。

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