技術進歩の最善の努力は悲惨な結果を起こしうる--『新版 日本経済の事件簿』を書いた武田晴人氏(東京大学大学院経済学研究科教授)に聞く


--住友が経営する銅山を舞台の「別子暴動」では。

労働問題は普通、労働者が困窮して起こる、貧困だから起こす、そういう言い方をするが、ここで取り上げている事例は必ずしもそうではない。経営が合理性を高めようとすると、それまでの労働の慣行を変えなければいけなくなる。変えることによって労働者をどう処遇しようとするのか。争議の根っこのところにあったのは、労働者が貧しいからという経済的な要求ではない。自分たちを労働者として評価し直してくれ、というヒューマンな叫びのほうが運動を突き動かしている。

--1918年の「米騒動」ではむしろマスコミに注目しています。

米騒動は城山三郎が書いた『鼠』といういい小説がある。富山のささやかな「女一揆」は、新聞の報道を介して「燎原の火」のように広がって、日本中を巻き込む。それだけマスコミが大きな力を発揮するような社会って何だろうかと。

第1次大戦の戦時好況の中で、貧富の格差が拡大してしまう。かつて政治に向かっていた民衆の民主化要求が、今度は経済的な要求に変わってくる。コメをよこせ、自分たちの生活を改善してくれとなる。

その結果として、陸軍閥の寺内内閣は総辞職せざるをえない。あとに続いた原内閣は徹底的に大阪朝日新聞を潰そうとする。ここはある意味で日本史の皮肉だが、通常の教科書的に言えば最初の平民宰相で民主化のきわみと考えられる内閣自身が、言論の自由に明確な意識を持った弾圧政府だった。

この弾圧によって日本のマスコミは「不偏不党」という牙を抜かれた状態になってしまう。それが次の戦争を準備する。明治維新からちょうど50年目。米騒動は大きな転換点で起きた。

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