大戸屋のメニューがガラリと変わる必然の未来 コロワイドの敵対的買収で経営方針を転換へ

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3. 新株主の提案は大戸屋の商品をがらりと変えそうだ

さて、コロワイドの子会社となったら大戸屋はどうなるのでしょうか。コロワイドの野尻公平社長が4月27日にテレビ東京のWBSに出演して、大戸屋の店内調理を批判しました。「セントラルキッチンでやっても変わらないもの、カット野菜なんて変わらないんですよ」と言い放ったことから、わたしを含めて視聴者はコロワイドがやりたいことがそのような方向なのだと受け取りました。

野尻社長は同じく番組内で大戸屋はコロナ以前からメニューが定食ばかりで夜の売り上げが伸びていないことが問題だと語っています。

今年6月25日に開催された大戸屋の株主総会では当時19%の持ち株比率だったコロワイドが提案した役員案は否決されました。しかし今回、持ち株比率が約47%になったことで大戸屋の経営陣の刷新は避けられないでしょう。方向としてはコロワイドから新社長が送り込まれて、コロワイドの意図に沿った新経営戦略に切り替わる可能性は十分にあります。

大戸屋の顧客層はどう変化するか

そしてこれはあくまでこれまでの野尻社長のご発言からの推測ということになるのですが、大戸屋の新戦略が以下のようなものになるとしたらどうでしょう。まず店内調理を見直しセントラルキッチンでの加工に変更することで大幅な生産性向上とコスト削減を行うこと。そして定食だけでなく夜は居酒屋メニューを充実させる。

仕入れ先を見直して、セントラルキッチンで集中加工すれば、よく似たメニューを800~900円台ではなく600~700円台で提供することは理論的には可能だと思います。野菜の量や大きさを変えずにうまくやることが重要ですが、できないことではない。

さらに夜はグループで焼き鳥や冷ややっこを注文しながらビールやハイボールでにぎやかに盛り上がる顧客が増えていく。

これまで大戸屋の価格が高くなっていくことで離れた顧客はそれで戻ってくるかもしれませんし、夜などは新しい客層が開拓できるかもしれません。なにしろ日本では新下流層の人口は増えていますし、実際にその価格帯でそのようなコンセプトで運営している競合他社の経営は順調です。

ただ大戸屋の従業員はそのやり方を非常に嫌がるだろうなと推測します。そしてなによりもここまでずっと大戸屋を離れてこなかったチョイ高消費の担い手の中流層がどう動くかは新しい大戸屋も気をつけなければいけないポイントでしょう。

いずれにしても今回はっきりしたのは、株主の論理としては現経営陣が負け、新株主が勝利したということです。必然的に大戸屋は変わらざるをえないことになるでしょう。それは既存客がそれをいいと思うにせよ、受け入れられないと思うにせよ、避けられない未来なのです。

鈴木 貴博 経済評論家、百年コンサルティング代表

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すずき たかひろ / Takahiro Suzuki

東京大学工学部物理工学科卒。ボストンコンサルティンググループ、ネットイヤーグループ(東証マザーズ上場)を経て2003年に独立。人材企業やIT企業の戦略コンサルティングの傍ら、経済評論家として活躍。人工知能が経済に与える影響についての論客としても知られる。著書に日本経済予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』(PHP)、『仕事消滅 AIの時代を生き抜くために、いま私たちにできること』(講談社)、『戦略思考トレーニングシリーズ』(日経文庫)などがある。BS朝日『モノシリスト』準レギュラーなどテレビ出演も多い。オスカープロモーション所属。

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