りそなが中小企業の「承継」で見せる決死の覚悟 100億円規模の事業承継ファンドを立ち上げた訳

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銀行が変わってしまったのはバブル崩壊以降。不良債権の処理が遅々として進まず自己資本が毀損、銀行自身が存亡の危機に瀕したからだ。そのため、なりふり構わぬ不良債権の圧縮に走り、貸し渋りや貸し剥がしを進めていった。そうした状況が落ち着いた後、超低金利時代が到来。企業も金余りが続き、より安い金利で貸し出す金利競争が常態化してしまった。

しかし、コロナ禍で状況は一変。多くの企業が窮地に立たされており、再生したり、出資して経営を支援したりすることが求められている。こうした支援こそ「銀行本来の業務」(岩永社長)であり、「やらなければならない支援だ」(同)というわけだ。

承継後も安心できる銀行に期待

事業承継に悩む中小企業経営者にとっては、これまで「手間の割には儲けが少ない」として消極的だった「銀行」という選択肢が増えるメリットは大きい。

事業承継を支援するPE(プライベートエクイティ)ファンドは存在したが、ファンドだけに短期で収益を回収する必要があり、リターンを考えるとどうしても規模の大きな企業に偏りがちだった。また、従業員を解雇したり、不採算事業を売却したりといった手法を取りがちで、経営者が望まない結果になってしまうリスクもあった。M&A仲介会社という選択肢もあったが、いわゆる「両手取引」のために必ずしも望んだ条件で売却できるとは限らず、売却後にも不安は残った。

それに対し、銀行が立ち上げたファンドであれば承継後も取引を継続、企業価値を高めることで向上した収益を得るビジネスモデルになるため、「オーナーの意向を考えながら、承継を進めていく」(岩永社長)ことができるのだ。

とはいえ、「100億円ファンド」といっても、規模はいかにも小さい。中小企業の株を100%取得するのだから、1社当たりのコストは数十億円に上り、「いったい、何社対応できるのだろうか」(銀行関係者)という話になるからだ。

また、「これまで消極的だっただけに、しっかりとしたノウハウを持っているのか」(M&A関係者)といった指摘もある。果たして、事業承継をも成功させ、承継後にどこまで企業価値を向上させることができるのか。5年という期限の中で成果を求められている。

『週刊東洋経済』9月12日号(9月7日発売)の特集は、「得する事業承継 M&A」です。
藤原 宏成 東洋経済 記者

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ふじわら ひろなる / Hironaru Fujiwara

1994年生まれ、静岡県浜松市出身。2017年、早稲田大学商学部卒、東洋経済新報社入社。学生時代は、ゼミで金融、サークルで広告を研究。銀行など金融業界を担当。

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