「都市封鎖」武漢の作家がつづったあの日の真実 新型ウイルスは中国社会の病巣もあぶり出した

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1月31日(旧暦1月7日)
媚びへつらうにしても、節度をわきまえてほしい

今日は正月七日、うららかな晴天と言っていい。これはよい兆しだろうか? これから1週間が、感染症との闘いの鍵を握る。専門家の話によると、感染した人は正月一五日までに、ほとんどみな発病するという。そこが転換点になる。だから、もう1週間頑張ろう。それ以降は、ほとんどの感染者が隔離され、未感染者は外出を許される。自由のときが来るのだ。そうではないか? 都市封鎖から現在まで、私たちはもう9日も閉じこもっている。山場は過ぎた。

ベッドから出る前にスマホを見ると、大変うれしい情報が届いていた。私たちの職場の若者は感染していなかった。今日は、まったく元気になっている。昨日は下痢をして、薬を飲みすぎたらしい。バカな子だ! 感染症が終息したら、おごってもらおう。みんなを驚かせたのだから。ひとしきり笑ったあと、すぐに別の情報を見た。

発病後、入院を待たされていた友人が亡くなった

私たちがよく知っている省歌舞団の友人は、発病後ずっと入院を待たされていた。ところが、受け入れの知らせが届いてすぐ、亡くなったというのだ。また、何人かの湖北省の役人が感染し、死亡者も出ているらしい。ああ、いったいどれだけの武漢人が、この災難の中で一家離散の憂き目に遭っているのだろう。現時点で、責任を認めて謝罪した人はいないが、責任転嫁の文章は無数に存在している。

命ある人は、誰に怒りをぶつければいいのか? ある作家は記者のインタビューに対して、「完勝」という言葉を使っていた。まったく話にならない。武漢はこんな状態なのだ! 全国がこんな状態なのだ!

何千何万の人たちが不安に怯えている。病院のベッドで、命の危険に向き合っている人もいる。無数の家庭が、すでに崩壊している。勝利がどこにある? 完全がどこにある? 同業者だから罵倒(ばとう)するのは申し訳ないが、頭を使って物を言え! いや、上層部の歓心を買うために、彼らは頭を使っているのだ。

幸い、すぐに別の作家が批判の文章を発表した。厳しい言葉で、詰問を重ねている。それで私は、良識ある作家もたくさんいることを知った。現在、私はもう湖北省作家協会主席ではないが、1人の作家ではある。私は湖北の同業者に、ぜひ忠告しておきたい。今後おそらく、功績を称える文章や詩を書くことを要求されるだろうが、筆を執(と)るまえに数秒考えてほしい。功績を称えるべき対象は誰なのか。媚びへつらうにしても、節度をわきまえてほしい。私は年老いたとは言え、批判精神は衰えていない。

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