益子直美が語る「バレーボール界の暴力」の現実 大山加奈さんと考える「熱血指導と主体性」

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笑顔で子どもたちに指導する大山加奈さん(写真:大山さん提供)

益子:だから、さっき加奈ちゃんが「怒ってもらったほうが楽」って言ったとき、私、本当はラクしてたんだなって。たたかれたり、怒鳴られたりするのは嫌だったけど、一方で自分で考えることしないまま、ここまで大人になっちゃったんだなあって思った。

だから、加奈ちゃんが以前別のインタビューで「小川先生は、バレーをずっと好きでいさせてくれた」って発言しているのを聞いて、すごくうらやましいな、って。

大山:そういうすばらしい指導者に中高で出会って、私は本当に恵まれていたと思います。あのとき違う道を歩んでいたら、私はもう本当に今ここにいない。中学高校でバレーをやめていただろうなって思うんです。

新たな指導スタイルの未来

――その点でいうと、大山さんは高校卒業後は熱血指導的な方に出会ったのでは? ギャップを感じませんでしたか?

大山:少なからずギャップはありましたね。ただ周りの選手たちは小中高とそういう環境で、当たり前のように育ってきたので、あまり違和感を感じていないようでした。

益子:ほかの選手は私みたいな感じだと思うよ。だから、みんなフィットしてたんだね。

大山:そうですね。だからやはり苦しかったです。ミスしたら怒られるので、ミスしないようにしなきゃとか、怒られないようにしなきゃとか、メンバーから外されないようにしなきゃというマインドでずっとプレーしてました。それまでは「うまくなりたい、強くなりたい、夢をかなえたい」っていうプラスのエネルギーで頑張ってきたのに。すべてが後ろ向きな、マイナスな考え方になってしまいました。

益子:そうなんだね……。何というか申し訳ない気持ちですね。私、1996年のアトランタ五輪をキャスターとして取材したとき、選手が「楽しみたい」と発言するのを聞いて「もっと真剣にやってよ」って正直思っていて。まだ昭和を引きずってました。それに、イトーヨーカドーのトレーナーが「バレーを楽しもう」っていう機運をアメリカから持ち帰ってくれたのに、それも後進につなげられなかった。

スポーツの新しい価値観や、選手を自立させる指導スタイルへの転換を図るチャンスは、益子さんの言うように過去にもあった。だが、バレーだけでなく日本スポーツ界全体が、それをまだ果たせていない。

益子さん、大山さんが言うように、選手の自主性に任せるのが指導者としての厳しさであるはずなのに、怒鳴ったり指示命令して選手を刺激することを「厳しさ」と思い込んでいる指導者は多い。

この記事の後編では、バレー界が変わるため、2人ができることを模索する。

島沢 優子 フリーライター

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しまざわ ゆうこ / Yuko Simazawa

日本文藝家協会会員。筑波大学卒業後、広告代理店勤務、英国留学を経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。主に週刊誌『AERA』やネットニュースで、スポーツや教育関係等をフィールドに執筆。

著書に『世界を獲るノート アスリートのインテリジェンス』(カンゼン)、『部活があぶない』(講談社現代新書)、『左手一本のシュート 夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』(小学館)など多数。

 

 

 

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