益子直美が語る「バレーボール界の暴力」の現実 大山加奈さんと考える「熱血指導と主体性」
益子:そうだよね。当時、私は引退していてスポーツキャスターとして加奈ちゃんたちを取材したけれど、ほかの高校と空気感がまったく違ってた。「やらされている感」がまったくなくて。
大山:私はキャプテンとして仲間に厳しいことを言わなきゃいけなかったりしたので、いろいろと難しかったですね。誰から見ても「チームでいちばんあの人は頑張ってるって思ってもらわなきゃいけない」と思って苦しかった。
益子:それなのに、周囲は「成徳は(顧問が)すごく甘い」って思われていたよね。「成徳に勝たせるものか」っていう雰囲気があった。
大山:みんな甘い甘いって言うけど、甘くないよ!って思ってました(笑)。皆さんが思っている「甘さ」って、休みがいっぱいあることや、怒られないこと。携帯を持っていてもよかったし、いろんなことが選手に任されていて自由でした。だから、成徳は甘いから勝てない、あんな甘いチームが勝てるわけないと言われていました。
益子:だから余計に燃えたよね。それで全国制覇しちゃった。
大山:もう絶対、(顧問の)小川(良樹)先生を勝たせてあげたい、やってやるって思ってましたね(笑)。
支配された指導法からいきなり解放されると…
――小川先生が怒らないのは自主性を引き出したいからで、休みが多いのはきちんとコンディションを整えているからですよね? 科学的な根拠にのっとって指導されていますね。益子さんはどう思いますか?
益子:いや、もう、私と加奈ちゃんとはある意味、正反対の経験をしていますね。私は中学高校で支配されるような、そんな指導方法を受けてきたんです。ところが、実業団のイトーヨーカドーに入ったら、いきなり自主性とか主体性が大切だとか、バレーを楽しめって言われるわけですよ。
大山:ああ、本当ですね。私と道のりが逆かも。
益子:トレーナーの永田さんっていうアメリカで活動されていた方がイトーヨーカドーに入ってきて。そのあたりからガラリと変わったんです。例えば、メンタルトレーニングを始めたり、練習休みなんか月に半日か1日あればいいぐらいだったのが、3勤1休、4勤半休ぐらいになった。
でも、自主性とか主体性とか、そういう、やったことがないので、自分でどうやってモチベーションを上げればいいのかとか、自分が何を目標に、そこまでたどり着くためにどうやって設計していくかとか、そういうことがまったくわからなかった。
大山:高校を卒業してから、初めて自由になったみたいな。
益子:そう。初めて。学生時代までは答えを100%与えられて、やれと言われたことをこなしてたから、もう、めちゃくちゃきついわけ。「益子はもっとバレー楽しめ」って言われても、「楽しむって何? この間まで練習中に歯を見せただけで怒られたのに、どういうこと?」ってわからなくて。
大山:混乱したんですね。
益子:そう。めちゃくちゃ苦労した。でも、もう時遅し、だったね。なかなか昭和の考えが抜けないまま、バレーを楽しめないまま引退した感じ。
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