微積分を知らない人が「損している」と言える訳 科学技術の多くは数学で「経験と勘」を凌駕した

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変化するものがあまりにも多いため、的中率100パーセントの天気予報はまだ実現していない。巨大なスーパーコンピューターを使っても、確実な予報を提供できる計算スピードは達成できないのだ。

そこで、天気予報ではすべてを正確に知ることはあきらめ、中間をとることにした。コンピューターは、大気をある面積、例えばヨーロッパの広域予報なら10キロメートル四方に区切った範囲内の天気は同じとみなして処理を行う。計算量が膨大になるので、区画はこれよりも小さくできない。このため天気予報には厳密でないところもあるが、それでもこの方法で予報を行うようになって以来、信頼性は大きく向上した。

さて、「明日は晴れ」の予報を信じるべきか。答えはイエスだ。100パーセント正確な予測はできないにしても、天気予報の精度はかなりのものだ。区画ごとに天気がどう変化していくかは、コンピューターが計算する。大気が移動する速度は微分で、一定時間経過後の変化量については積分を用いて解析する。天気予報は数学のおかげで格段に正確になった。実際、翌日の予報はほぼかならず的中、翌週の予報でも8割から9割程度は当たるようになっている。微積分はこんなところでも役に立っているのだ。

微積分で橋をかける

変化するのは天気だけではない。ほかのもの、例えば建物も絶えず変化している。見てわかるものではないが、外部から受ける風の力や建物内にいる人間の重さなどでつねに負荷がかかっている。重力で下向きに引っぱられているにもかかわらず倒れないのは、それに耐えられるように建てられているからだ。

建築は、長らく勘が頼りの技術だったが、20世紀初頭には科学の理論としての性格が強まった。ゴールデンゲート・ブリッジは、全長約2700メートル、ケーブルに使用されているワイヤーの長さは12万9000キロメートルにも及び、1937年の完成時は世界一の長さを誇っていた。圧倒的な大きさの橋はどうやって造られたのだろう。強風による橋の崩落を防いだり、中央部が重すぎてたわんだりしないようにするために、何をしたのか。そこには計算に基づく工夫があった。

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