微積分を知らない人が「損している」と言える訳 科学技術の多くは数学で「経験と勘」を凌駕した

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橋の崩落危険度を計算する際に用いられる物理学は、微積分がベースになっている。中心となるのは鋼材のたわみだ。ゴールデンゲート・ブリッジは鋼鉄の塔が大部分の重さを支える構造になっているが、鋼材に生じるたわみの程度は計算で求められる。形状の変化の計算には微分が、さらに全体でどの程度たわむかは、積分が用いられる。なお、この計算では鋼材の向きをはじめ、さまざまな条件を考慮しなければならない。

次の図に示したように、鋼材を横に寝かせて置くと、そのたわみは立てて渡した場合よりもかなり大きくなる。

(外部配信先では図を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)

構造物の安全性は計算で確認される

前もって計算ができれば、せっかくかけた橋が崩落するような失態は防げる。橋に限らず、大きく複雑な建物を建てるときには数学が欠かせない。構造物の安全性は計算で確認されるため、それまで誰も見たことがないような建築物も可能になったのだ。

『公式より大切な「数学」の話をしよう」(NHK出版)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

微積分は世界を変えた。飛行機をはじめコンピューターやスマートフォンなど、現代の科学技術の多くは微積分を応用して実現された。世界をよりよく理解するために微積分は不可欠だ。もしなかったとしたら、人間はいまだに経験と勘だけに頼っていただろう。とっつきにくい印象があるかもしれないが、微積分の基本の考え方とその実用性は十分わかりやすいものだ。

数学では、記号にまどわされて基礎となる概念を見失ってしまいがちだが、微積分の根底にあるのは「変化をかぎりなく細かく分けて分析する」ことだ。身のまわりにある機械の仕組みを理解したければ、まずこの考え方を押さえる必要がある。大事なのは、その手法が「どのように」機能するかではなく、「うまく」機能することである。

身のまわりの世界がどうやって成立したのかを知っておくことは悪くない。そうすることで、社会に対するよりよい視点が得られるからだ。

ステファン・ボイスマン 数学者

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Stefan Buijsman

1995年、オランダ、ライデン生まれ。15歳でライデン大学に入学し、天文学、コンピュータサイエンス、哲学を学ぶ。18歳で修士号を取得。その後、スウェーデン、ストックホルム大学で通常4年の課程を18か月で修了、20歳でストックホルム大学最年少博士号を取得。現在はストックホルムの研究機関で数学の哲学の特別研究員(PD)。2018年、数学がテーマの児童書(共著)を刊行。同年に刊行された本書『公式より大切な「数学」の話をしよう』は18か国で出版が決定したほか、オランダ文学基金による「2018年注目のノンフィクション10冊」にも選出された。2020年、AIをテーマにした新作を上梓。オランダ、デン・ハーグ在住。

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