中野:だから、政治が国民の声を汲み取って、さっさと「大きな政府にする」と言ってしまえばいいわけですよ。財政赤字が心配だという人には、MMTという説明がちゃんと用意してある。
柴山:コロナ以降にアメリカの経済学者が書いたものを見ると、ずいぶん風向きが変わってきたなと思います。FRBのパウエル議長までが「財政出動が必要だ」と言い出している。
もう1つ、これはコロナ以前からそうなってきていますが、「もう株主資本主義ではダメだ」ということは、ほとんどコンセンサスになりつつありますね。
中野:そう思いますね。30年遅いけれど。
回復できる体制が必要
柴山:産業政策についても、最近は中国がそれで力をつけてきたということもあって、研究が増えてきましたね。私のところで、このテーマで論文を書いている学生も、あまりに沢山出ているんで読み切れないほどだと言っていました。
ほかにも「レジリエンス(復元性)が重要だ」という話になってきている。今回のような危機が起きた場合、すぐに回復できる体制が必要だという考え方です。このあたりのことは、われわれも東日本大震災の頃から指摘してきたことです。危機の不確実性を考慮したら、効率性のみを追求するより、少し余裕を持たせたほうが長い目でみると合理的になる。
これらは、もともと日本企業が、長期的視点に立った経営というかたちで追求してきたことですね。株主重視ではなくステークホルダーを重視するという話にしても、産業政策にしても、ずっと日本がやってきたことだったわけです。日本に限らない。どの社会でも経験的に知られてきたことのはずです。むしろ、この30年、40年がおかしかったんです。
コロナのおかげかどうかはわかりませんが、新自由主義型経済の本家であったアメリカでも、それまでの主張が急速に崩れてきて、それぞれの国が本来持っていた、伝統的な知見とでも言うべきものに回帰する流れが始まっている。もっとも、日本はアメリカが変わってしばらくしないと変わらないので、そこがもどかしいところなんですが。
施:今回のコロナ危機は、日本という国が依って立つ基盤を明らかにした一方で、その弱体化が進行していることも同時に示唆したのではないかと感じます。しかし政治の世界を見ていると、過去の遺産に頼るだけで終わっていて、肝心の基盤が揺らいでいることや、どうすればこれを守っていけるのかという点については、残念ながらほとんど議論されていないですね。
世界から称賛を受けた日本人のいわゆる「民度」を保つためには、「文化的なるもの」、「共同体的なるもの」を伝えていく場である家庭や近隣共同体、地域社会を守っていかなければならないし、政治の面でも、国民が一体感を維持し、結束・協調してコロナのような難局に対処していくために、格差の是正や教育の充実、あるいはボトムアップの意思決定システムの再生といった政策を能動的に進めていく必要があるはずです。
こうした課題をきちんと意識し、解決していくことが、すなわちコロナ危機を克服することだと言っていいのではないでしょうか。
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