観光を成長戦略にする政策はもうやめるべき訳 緊縮財政を超えて求められる「新しい政策様式」

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中野:サマーズ、クルーグマン、スティグリッツ、ブランシャールなど、アメリカの主流派経済学の大物たちも、「もう政策手段として残されたのは財政出動ぐらいしかないし、それがいちばん効く」「日本の財政赤字は心配する必要はない」と言っているのに、日本政府はここに至っても「財政規律を堅持します」と言っているわけです。

中野 剛志(なかの たけし)/評論家。1971年、神奈川県生まれ。元・京都大学工学研究科大学院准教授。専門は政治経済思想。1996年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。2001年に同大学院より優等修士号、2005年に博士号を取得。2003年、論文‘Theorising Economic Nationalism’ (Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。主な著書に山本七平賞奨励賞を受賞した『日本思想史新論』(ちくま新書)、『TPP亡国論』『世界を戦争に導くグローバリズム』(ともに集英社新書)、『国力論』(以文社)、『国力とは何か』(講談社現代新書)、『保守とは何だろうか』(NHK出版新書)、『官僚の反逆』(幻冬舎新書)などがある。(撮影:今井 康一)

施さんの言う新しい政策様式にしても、柴山さんご指摘の教育の問題でも、政府がやるべきことはたくさんあるはずです。でもそのためには最低限の前提条件として、財政出動を行い、財政赤字を拡大することを認めなくてはならない。そうでないかぎり、新しいことは何もできない。

例えば地方に外国人を連れてきてお金を使わせるという安易なやり方ができなくなったときに、どうすれば雇用を守れるのか。いちばん簡単なのは、予算をつけてやって地方公務員を増やすことです。

柴山:公務員に関しては、日本は人口比であまりに少ないわけです。需要が増えているのに公務員を増やさないで、コストをどんどんカットしていったのがこの20年の日本の行政です。増えていく行政需要に対して、逆に行政供給を絞ってきたことで、あちこちで機能不全が起きている。

地方では地方公務員が安定的な雇用先で、女性の雇用比率も高い。しかもこれからはコロナ危機に対して給付金を配るといった行政需要は増えることが予想されるわけですから、これを増やすのが本来は正しい。

その地方行政の改善の中には当然、地域医療の充実や、学校の先生の待遇改善も含まれるべきです。教育を無視して国家の未来はありえないのだから、そこはとくに優先して考えるべきことだと思いますね。

財政規律路線を捨て、財政の拡大を

中野:大きな政府の方向に舵を切るということこそ、ポストコロナで経済の破局を回避するための唯一の解です。少なくとも、これまでの財政規律路線を捨てて財政を拡大しないと、日本経済を立て直すためにどれほど知恵を出したところで、全部画餅に終わってしまう。平成の30年間が、まさにそれだった。

柴山:おっしゃるとおりです。日本社会の疲弊は、政府が財政再建にこだわっていることに、大きな原因がある。

中野:実際は学者より政治家のほうが、積極財政には理解があるんです。選挙区で国民と直接接して、貧困や格差、地方の衰退を目の当たりにしている政治家の先生たちには、「このままでいいのか」という強い動機があるからでしょうね。逆に、財政均衡論者の学者たちは、国民生活の実態を知りません。

佐藤:医療でも教育でも、現場の声を聞いたら最後、財政均衡重視の緊縮路線をやめて、積極財政路線に転換しなければどうしようもないという結論がすぐ出る。しかるに政府は「どうせ対策を打つカネがないんだから、どこに問題があるか調べたって仕方ない」とばかり、開き直って耳を塞いでいる感が強い。

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