観光を成長戦略にする政策はもうやめるべき訳 緊縮財政を超えて求められる「新しい政策様式」

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:その治水すら、まともにできなくなっている。そういう点でも、緊縮財政にこだわりすぎて行政がおかしくなっているのかもしれません。今後も大雨が降るのはわかっているのだから、いい加減堤防を高くするとか何か対策を打たなければいけないのに、ほぼ何もできずにいる。このままだと、また来年も必ず水害が起きますよ。

中野:治水という国家の基本中の基本をほったらかして、クルーズ船の港湾整備をやっていたわけですか。

:予算が増やせないと言うのなら、もうオリンピックはやめて、災害対策に充てたらどうでしょう。東京だって昨年、台風でひどい目に遭っているわけですから。近いうちにまた、多摩川が氾濫するかもしれませんよ。変えるべきところを真剣に変えていかないと、疲弊する一方の国民に頼るだけでは、いずれ限界がくるだろうという気がします。

今こそ経済政策の転換を

中野:この座談会の1回目でも話に出ましたが、今回のコロナ対策を巡る議論は、医学的な破局、経済的な破局、財政的な破局の3つのうちの全部は避けられないトリレンマだと思われているようです。例えば医療崩壊を防ぐためにロックダウンをすると、大不況になるので、財政出動をすると、財政破綻する……といったように。それがまた議論をややこしくしている。

佐藤 健志(さとう けんじ)/評論家、作家。1966年、東京都生まれ。東京大学教養学部卒業。戯曲『ブロークン・ジャパニーズ』(1989年)で文化庁舞台芸術創作奨励特別賞を受賞。『ゴジラとヤマトとぼくらの民主主義』(文藝春秋、1992年)以来、作劇術の観点から時代や社会を分析する独自の評論活動を展開。主な著書に『僕たちは戦後史を知らない』(祥伝社)、『右の売国、左の亡国』(アスペクト)など。最新刊は『平和主義は貧困への道』(KKベストセラーズ)(写真:佐藤 健志)

でも実はこの3つ目の財政の破局というのは、うそなんですね。MMT(現代貨幣理論)を持ち出すまでもなく、自国通貨を発行する日本政府が財政破綻することはありえませんし、財政赤字の拡大が将来世代にツケを回すことになるという話も、間違いです。

政府の債務というものは、将来の増税で返済しなければならないものではない。むしろ、財政赤字を無意味に恐れ、治水や医療体制の整備などを怠ることの方が、よほど将来世代へのツケ回しでしょう。

佐藤第1回でお話ししたとおり、本来は医療と経済の両方について、破局的なシナリオを回避するのが望ましい。しかしここには、ジレンマ、ないしパラドックスがあります。感染を収束させなければ経済も回らないが、感染拡大を抑え込もうとすると経済被害が大きくなってしまうのです。

ただし経済被害については、政府の財政出動によって軽減が可能です。ひきかえ国債を発行したところで、医師がすぐに増えることはないし、ワクチンがいきなり完成することもない。よって「感染の収束を優先させつつ、財政出動で経済被害を軽減する」が、最も効果的な対処法となります。どんな対処法が正解か断定できないなどと主張するのは、あとで責任を問われないための逃げ口上にすぎません。

問題はわが国の政府が、あれこれ理由をつけてそれをやろうとしないことです。すでにジレンマが存在するのに、「財政の破局的シナリオ」という存在しない危機まで持ちこんで、物事をいっそう厄介にしている。「感染収束よりも経済優先」の姿勢は、医療と経済の両方について破局的なシナリオを実現させる危険がありますが、「財政健全化にこだわったまま、感染収束よりも経済優先」となると、医療・経済・財政のすべてについて破局的な結果を招くでしょう。

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