観光を成長戦略にする政策はもうやめるべき訳 緊縮財政を超えて求められる「新しい政策様式」

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:国難と言われるような出来事に遭遇したとき、日本で為政者が頼るのは結局、民衆の自発的行動なんですね。国民の賢さとか、「文化的なるもの」、「共同体的なるもの」、「伝統的なるもの」に頼らざるをえない。そうだとすれば政治も、それを維持・発展させていくことを考えてやっていかなければいけないはずです。

求められる新しい政策様式

:政府は「新しい生活様式」を国民に求めていますが、実は求められているのは「新しい政策様式」のほうではないかと私は思っています。

数年前からクルーズ船観光が「観光立国」政策のなかで重視され、「クルーズ船が発着できるような港をどんどん造りましょう」ということで、日本各地で港湾設備を整えることが公共事業の一つの柱になっていました。でも常識的に考えて、どの国でもクルーズ船に乗りたがる人は少なくとも今後5年ぐらいはほとんどいないでしょう。

しかし、ここに至ってもまだ政府からは、「インバウンド需要の見通しを改めよう」という話は出てこないですね。クルーズ船観光も観光立国政策も修正する気配もありません。

中野:「この道しかない」ですか。

施 光恒(せ てるひさ)/政治学者、九州大学大学院比較社会文化研究院教授。1971年福岡県生まれ。英国シェフィールド大学大学院政治学研究科哲学修士(M.Phil)課程修了。慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程修了。博士(法学)。著書に『リベラリズムの再生』(慶應義塾大学出版会)、『英語化は愚民化 日本の国力が地に落ちる』 (集英社新書)、『本当に日本人は流されやすいのか』(角川新書)など(写真:施 光恒)

:報道によれば、クルーズ船は莫大な維持費がかかるそうで、クルーズ船を廃船にするところも多いようです。クルーズ船の寄港を嫌がる住民も今後増えるでしょう。そういった現状を見れば、クルーズ船観光重視という政策はもう撤回せざるをえないでしょうし、クルーズ船にかぎらず、観光やインバウンドを成長戦略の柱に据える政策は、もうやめたほうがいい。

そもそもなぜ観光立国のようなアイデアに頼ったのかと考えると、デフレ不況が続き、日本の実質賃金も世帯当たりの平均所得も1990年代半ばをピークにどんどん低下し、購買力が落ちてきていたということがあります。

とりわけ地方は、新自由主義に基づくグローバル経済の下では、必然的に衰退していく。TPPもあって、農業はもう将来が見えない。新自由主義に政治家も官僚もとらわれているので、緊縮財政主義から脱却できず、公共投資を増やし、経済を刺激するという手も取れない。

そのような中で「だったら外国人を呼んできて、金を使わせ、経済を回していこう」というような、安易な発想があったと思います。

しかし、コロナでもうそれは成り立たないわけです。コロナ危機でグローバル経済の流れが変わり、それに呼応する形で大規模な政策のパラダイム転換をやらなければいけないのに、そういった話が政府からは全然出てこない。このままではまずいですよ。新しい政策様式への転換を、政府に提案したいですね。

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