「コロナ不況」と「昭和恐慌」を同一視する危うさ 悲惨な歴史から私たちは何を学ぶべきなのか

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池上:デフレで経済不況の中、政府が国債によってお金を調達して積極的な財政支出をし、景気が回復してくれば、今度はインフレにならないように財政の支出を見直す。こういう考え方が、世界恐慌を経験したあとの世界では、一般的なものになりました。

増田:ケインズの財政政策ですよね。

池上:ケインズが国債発行による財政政策を説くより、高橋の実践のほうが時代が早いともいわれています。ケインズが、そういった主張をまとめた『雇用・利子および貨幣の一般理論』を公刊したのは1936年なんです。

歴史に何を学べるのか

増田:経済政策自体はいろいろな考え方もありますし、時代や状況、社会によってどういった対策を取ったほうがよいのかもそれぞれ違うでしょう。恐慌の歴史から学べることはあるでしょうか。

池上:高橋が財政を担った時代と似ている長期停滞の時代があるといわれています。第1次世界大戦による大戦景気がはじけ、1920年から不況の時代が始まります。そして、1990年ごろにそれまでふくらみ続けた資産価値が下落に転じ、平成バブルの崩壊。続いて、1927年の金融恐慌と1997年からの証券会社や銀行の相次ぐ倒産による金融危機。その次は、1929年のニューヨーク証券取引所の株価の大暴落を契機とした世界恐慌と2008年のリーマン・ショック。

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増田:そうとらえると、歴史からは嫌な道を思い浮かべることになりますが。

池上:世界恐慌のあとには第2次世界大戦が起こりますが、今度もそうなると言っているわけではありません。

増田:私が嫌だなと思っているのは、この新型コロナウイルス感染症との戦いを、「戦争」だと言って、国民に呼びかけるリーダーたちが多いことです。

池上:現にアメリカのトランプ大統領は「戦時大統領」と称し、「犠牲者を10万人に抑えることができた」と自慢しています。ベトナム戦争のときの米兵の死者5万人の倍以上になっているのに。その後、死者は11万人に達しています。

増田:第2次世界大戦が終わった後は、それまでの反省から国際協調の動きが出ました。

池上:国際連合ができましたし、お金がなくなって貿易ができなくなる国が出ないように、お金を貸すIMF(国際通貨基金)もできました。貿易も保護主義はよくない、みんなで調整しようと、GATT(関税及び貿易に関する一般協定)ができ、それがWTO(世界貿易機関)になりました。

増田:もちろんそれらが完璧なものだとは言いません。新型コロナウイルスの問題をめぐって今、争いも起こっています。世界の保健医療問題を解決しましょうとつくられたはずのWHO(世界保健機関)についてもさまざまな意見があります。しかし逆にそういった困難な事態があるからこそ、それを乗り越えようとしてきたのもまた人類の歴史なのではないでしょうか。

池上 彰 ジャーナリスト

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いけがみ あきら / Akira Ikegami

1950年、長野県生まれ。1973年慶応義塾大学卒業後NHK入局。ロッキード事件、日航ジャンボ機墜落事故など取材経験を重ね、後にキャスターも担当。1994~2005年「週刊こどもニュース」でお父さん役を務めた。2005年より、フリージャーナリストとして多方面で活躍中。東京工業大学リベラルアーツセンター教授を経て、現在、東京工業大学特命教授。名城大学教授。2013年、第5回伊丹十三賞受賞。2016年、第64回菊池寛賞受賞(テレビ東京選挙特番チームと共同受賞)。著書に『伝える力』 (PHPビジネス新書)、『おとなの教養』(NHK出版新書)、『そうだったのか!現代史』(集英社文庫)、『世界を動かす巨人たち〈政治家編〉』(集英社新書)など。

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増田 ユリヤ ジャーナリスト

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ますだ ゆりや / Yuriya Masuda

1964年、神奈川県生まれ。27年にわたり、高校で世界史・日本史・現代社会を教えながら、NHKラジオ・テレビのリポーターを務めた。テレビ朝日系列「大下容子ワイド!スクランブル」でコメンテーターとして活躍。著書に『揺れる移民大国フランス』『世界を救うmRNAワクチンの開発者カタリン・カリコ』など多数ある。また池上彰氏との共著に『歴史と宗教がわかる!世界の歩き方』などがある。「池上彰と増田ユリヤのYouTube学園」でもニュースや歴史をわかりやすく解説している。

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