しかし、米中信頼担保の役割を果たしてきた中国人留学生はいまや米中不信の種になってしまった。中国政府がその一部を政治利用し、アメリカの安全保障や価値観を脅かすツールとして用いることが広く認識されてきたからだ。2018年アメリカ連邦捜査局(FBI)は、一部の理系分野の中国人留学生・研究者が「非伝統的な収集者」として知的財産の不正流出に加担していると報告した。
問題は知的財産の流出だけにとどまらない。中国領事館が中国人学生団体と連携し、各大学における教育・研究活動に中から影響力を行使しようとする事例が数多く報道されている。ダライ・ラマや中国亡命者による講演への妨害行為がその際たる例だが、ほかにも領事館によって中国人留学生の言動が監視されるだけでなく、その監視の目が各国で教鞭をとる大学教員、とくに中国研究者にまで及ぶ可能性に危惧が高まっている。
すでに中国国内の大学では、習近平体制を批判した大学教授の言動が学生を通じて政府当局者に伝わり、後に逮捕されている。同様の現象が中国人留学生を通じて海外の大学教員に起こらない保証はない。豪州では講義中に中国を批判した教員がSNS上で批判を浴びる事件が起こった。
中国研究者の間に募る懸念
現に世界の中国研究者の間では、中国政府からの懲罰を恐れた結果広がりかねない自己検閲に懸念が広まっている。今年発表された調査研究では、中国本土以外で活動する中国研究者562人のうち、約7割が中国研究における自己検閲に危機感を示したという。中国当局による長期的な拘束は非常にまれでも、中国への渡航規制や公文書館へのアクセス制限、訪中時に当局者から誘われる「お茶」など、さまざまな圧力が実体験として報告されている。
一方、中国領事館の留学生に対する介入の度合いには地域間でも差があり、その実態はつかみきれないことから、トランプ政権内では中国人留学生を一緒くたに敵視する声もある。だが、ただでさえ政治の分極化が進むアメリカにおいて、反移民主義的傾向の強いトランプ政権が闇雲に中国人入国規制を行えば、それは必ずや国内外で物議を醸し、アメリカは内部分裂を起こしてしまうだろう。中国系のアメリカ市民に対する差別問題につながる危険性もある。
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