日本の国立大学、医歯薬理工系学部を置く公立・私立大学を対象にした2018年の経済産業省の調査によれば、輸出管理の担当部署や内部規定を設定している大学はまだ半分程度だ。内部規程のない大学では外国人留学生・研究者受け入れ時点で安全保障上の審査を行っているのはわずか6%にすぎなかった。ここ数年における中国人留学生の急増および国際情勢の変化を受け、こうした抜け穴を早急に埋める必要がある。政府は対策実施のための財源やノウハウが不足している大学を中心に支援を拡充し、対策を最大限に強化したうえで優秀な理系分野の中国人留学生を迎えるのが望ましい。
さらに日本の大学内での言論・学問の自由を保護し、中国を扱う研究者たちが自己検閲せざるをえない状況にならないよう、政府・大学が連携して策を講ずる必要がある。昨年9月、北海道大学の岩谷將教授が中国社会科学院近代史研究所からの招聘による訪中時に反スパイ法違反の嫌疑で拘束され、その後日本政府の働きかけで解放されたことは記憶に新しい。
日本国籍の研究者が2カ月間拘束
2015年以降、中国では14名もの日本人が拘束され、大手商社の社員を含む9名が有罪判決を受けている。だが今回、日中戦争史を専門とする日本国籍の研究者が2カ月間拘留されるという史上初めての出来事は、日本の中国研究者に大きな衝撃を与えた。
今後、ほかの日本人中国研究者が訪中時に拘束されるリスクやその他の圧力から研究分野を制限されたり、中国人留学生の面前では率直に意見できない状況になったりすれば、自由主義国の根幹となる言論・学問の自由は次第に腐敗していくだろう。同状況下にある自由主義諸国の大学や研究者等と意見交換を深め、ともに知恵を絞らなければならない。
留学生大国を目指す日本は、今後とも大学の開かれた言論空間を堅持し、機微情報や知的財産の保護対策を徹底的に強化したうえで、優秀な留学生を歓迎しなければならない。そのためには中国人留学生がもたらす問題が、日本の安全保障、知的財産、そして言論・学問の自由に関わる分野横断的な問題だと認識し、国を挙げて防衛措置を強める必要がある。こうして防衛策を徹底させ潜在的攻撃者を抑止できれば、攻撃の武器として用いられる中国人留学生を守ることにも繋がる。
一方、今後も中国政府が留学生を利用した政治工作を加速させ、こうした強化措置だけでは対応できなくなれば、日本を含む自由主義諸国は中国人留学生に対して国境を閉じていかざるをえなくなるだろう。また日中の相互理解を支えてきた日本の中国研究者や経済人が安心して訪中できない状況が続けば、日中関係は厚みを失いすさんでいくだろう。そんな日中関係、国際社会が中国の望む世界なのか。留学生をめぐるデカップリングの動きは、北京にそう問いかけている。
(寺岡 亜由美/プリンストン大学 国際公共政策大学院安全保障学博士候補生)
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