観光産業の多くは「設備投資型」産業であり、稼働率の向上が経営状況に直結するビジネスです。これは、白馬村のスキー場経営を例に取るとよくわかります。「白馬岩岳マウンテンリゾート」は数年前まで、冬のスキーシーズン中は1カ月で最大4万人以上の来場者数がありました。一方で、冬以外のグリーンシーズンは最大でも月間1万人強、少ない月では1000人未満のこともあったのです。
近隣の宿泊施設の利用も白馬岩岳へのスキー客がほとんどだったため、グリーンシーズンの多くは営業をしていない施設も多くありました。それでも、冬場の稼ぎだけで年間、まかなっていける時代はよかったのですが、スキーヤーの減少、雪不足、施設の老朽化といった問題から、ウィンターシーズンだけに頼っていくわけにはいかなくなったという経緯があります。
スキー場に限らず、従来型の多くの観光地では日本人の画一的な休日取得形態の影響を受けて、年末年始や週末に来場者の多くが集中する傾向にあります。そうすると、施設のキャパシティをこの繁忙期の来場者数に合わせて設計せざるをえず、結果として平日の閑散期に稼働率が大幅に落ち込むという状況になっているのです。
観光地の繁閑差が大きいと満足度が低下し続ける
しかも、スキー場やビーチなど、季節性の強い魅力に100%依存した観光地や、団体旅行やツアーバスなど「ある日程だけ大量にお客さんが集まる」タイプの集客に依存した観光地も、日本には数多く存在しています。特定の地域に注目し、一気に大量の集客をしてきた従来のキャンペーンのあり方や単発のイベントに頼った集客も、稼働の平準化とは逆行した動きでした。
繁閑の差が大きいがゆえに雇用が安定しないという課題もあります。来場者の多い日は客を短時間で「さばく」ことに重点が置かれてきた結果、つねに「上質な体験」を提供できているとは言いがたい状況でした。年末年始やお盆休み、GWなどの特定のピーク日には混雑によるサービス低下が起き、結果として満足度が上がらず、リピートにつなげられないケースも多いように思います。
これに対し、繁閑の差を小さくし稼働の平準化が進めば、かりに年間トータルの来場者数が同じでも、来場者数に比して適切な施設規模を維持することができるため、今後整備が必要な施設容量を抑えられます。一方で、お客様の快適性も向上するのです。観光施設の通年雇用が拡大でき、人口減少時代の地域社会が抱える課題の解決に近づくことにもなります。
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