特に新築マンションの場合、最も安い値段のものを選ぶのは、「最も価値が低いものを購入する」ことであるとも感じられ、なかなか踏み切れない。
マンションの売り出しチラシで「価格は6770万円~」とあればこれが最低価格だろうが、このいちばん安い物件を買おうと考える人は少ないのではないか。また、「最多価格帯」という表記もあるが、これがまさに「真ん中の金額です」と言われているようで、その真ん中ゾーンのうちちょっとだけ上だといいなと思う。
不動産なんて買い物は多くの人にとって一生に一度だ。大根やモヤシを買うなら失敗してもいいが、数千万の買い物をするにはそうもいかない。せっかくローンを組む以上は、「買える限りで、価値が高いもの=安いものよりは(少しでも価値のある)高いもの」を選ぼうとする。「安さは正義だ」と言いたいが、すべてがそうとは言い切れない。
商品によっては、一定以上の高額で買ってもらうための「新・松竹梅の法則」という手法もありそうだ。勘のいい方ならおわかりだろう。価格が価値とイコールと思っている購入者に対し、高いほうの値段が適価だと納得させるために、かなり安く値付けされた“おとり”をあえて作る手法だ。
その場合、おとりである「梅」ランクのものは、価格が安いだけでなく機能やグレードをかなり見劣りするようにしておく。すると、その上の「竹」の値段がそこそこ高いとしても、消費者は「それだけの価値がある」と納得しやすい。安いものはそれなり、いいものを買うにはこのくらいの金額を払うべきだよね、と感じてしまう。
万人が価格を絶対的にジャッジできる能力を備えているわけではなく、判断には“基準”が必要だ。いや、基準がなければ「高い」「安い」「妥当」の判断すらおぼつかない。こう考えれば、“適正価格”とはたぶんに錯覚だといえよう。
高級品に掘り出し物なし?
資産価値があるものを買う際、高いほうを選びたくなるというのは、いつかそれを売却したときに、多くのキャッシュを手にしたいという面もあるだろう。理屈で言えば、価値は同じで価格が安い掘り出し物を見つければ、それだけ売却益が出るはずだ。だが、なかなかそういう決断も難しい。
例えば、相場よりも安い不動産を見つけたとして、思い浮かぶのは「なんでこんなに安いのか。どこかに瑕疵があるのでは」だろう。相場より安いと不安になることはあっても、「やった、激安物件を見つけた、即買い決定!」という気にはなりにくい。
高級ブランド品などもそうだ。筆者は定点観測的にブランド質屋を覗くのだが、貴金属でも時計でも、同じシリーズやグレードのもので必ず価格差がある。この差について店員に聞くと、こまごまとその理由を教えてくれる。販売者ではない素人には気づかない違いがあり、それはそのあとのリセール価格にも響いてくる。だったら、高いほうを買った方が安心だと思ってしまう。
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