「ありえない賃金カット」を覆した保育士の戦法 不当な扱いを受けたときにどう動くべきか

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地域福祉ユニオンの市川正人書記長は、「国の通知が出ても無視し、きちんと休業補償しないで逃げ切れると思っている事業者がいる」と指摘。しかし、たとえそうした事業者がいたとしても、保育士が署名を集める、休業補償を満額支給しない理由を書面で求めることを勧める。市川書記長によれば、その際の主なポイントが2つある。

1つ目は、民法536条の2項により、事業者の責任によって働けない場合、労働者が賃金を受ける権利があること。2つ目は、正職員と非常勤職員との間に休業補償の対応に差があれば、労働契約法20条の『期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止』や、パート・有期雇用労働法8条の『不合理な待遇差の禁止』(大企業は2020年4月から、中小企業は2021年4月から適用)を主張できるということ。

市川書記長は、続ける。

「保育士の休業補償を求めるとき、労働条件が法で守られていることを保育士自身が知っていることを事業者側に表明することは、重要なポイントです。そうしたことを書面で伝えると、一定の効果があります。そして労働組合に入れば、組合員は労働組合法によっても守られます。団体交渉を申し入れれば、経営者や園長などの責任者は団体交渉に応じる義務が生じるので、無視はできなくなります。

労働組合に馴染みのない保育士も多いと思います。公立保育園は組合への加入率が高く、ベテラン保育士も多い。公立が中心になって周辺の私立保育園にも目配りし、労働条件を点検することは、地域の保育の質の底上げにもつながります」

そして、通知の効力も大きい。全国各地で保育士の不当な給与カットが横行したことを受け、内閣府、厚生労働省、文部科学省が連名で6月17日に出した通知「新型コロナウイルス感染症により保育所等が臨時休園等を行う場合の公定価格等の取扱いについて」が改めて出されたことは、自治体による指導や監査の拠り所となる。

同通知は、コロナの影響があっても運営費を通常どおり支給するため、職員の休業補償は労働基準法上の休業補償の6割以上にとどまることなく通常どおり支給するよう明記され、踏み込んだものとなっている。それと同時に、運営費が適正に使われているか、自治体に適切な「確認指導監査」を行うよう求めているのだ。

自治体が動かない場合、議会で追及できる

ただ、いくら保育士が自治体に相談しても動いてくれないケースもある。総務省の元キャリア官僚で弁護士でもある、神奈川大学の幸田雅治教授(地方自治論)はこう指摘する。

「自治体は事業者に対して強く指導し、監査すべきです。自治体には休業補償を通常どおり支給するよう指導できる権限があるのです。監査でも人件費分の使途を厳しくみて、個別に是正させなくてはなりません。

もし満額支給されない保育士からの相談があっても、指導も監査も行わないというのであれば、国が特例措置して人件費を通常どおり出している以上、自治体が公金の不適切使用をみすみす見逃していることになります。

法令違反があれば、行政手続法に基づいて誰でも『処分等の求め』を文書で自治体に提出して、行政指導をするよう求めることが可能です。ただ、自治体の応答義務が法に明記されていないので、自治体は放っておくこともできてしまう。この点は法改正が必要ですが、もし『処分等の求め』があっても自治体が動かない場合、自治体議員が議会で追及することも可能です。そして、『不当』または『違法な財務会計上の支出である』として、住民監査請求を起こして、自治体の責任を追及する方法もあります」

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