豊田章男がトヨタの冠がない会社に私財注ぐ訳 「トヨタ社長と資本家」2つの顔で未来つくる
自動車はデータの宝庫といわれるが、データセンター側には、収集したデータを集積するプラットフォーム、データを分析・解析するAIが必要とされるなど、やはりソフトウェアありきの設計だ。
カーシェアやライドシェアといった新サービスの創出にも、ソフトウェアは必須である。トヨタは、自動車産業の枠を超え、街づくりまで考えているが、ソフトウェアは、街づくりにも必要だ。2020年1月に発表された「ウーブン・シティ」構想がそれである。
振り返ってみれば、2年前、トヨタはデンソー、アイシン精機とともに、TRI‐ADを設立し、自動運転や先進安全技術の開発を進めるとともに、ソフトウェアの開発に乗り出した。ソフトウェア事業の強化は、トヨタが未来に向けて事業を拡大するための待ったなしの課題だ。それなしに、トヨタの未来は描けない。まさしく、章男氏にとって〝一業〟にふさわしい一大事業というわけだ。
「日本に資本家がいなくなっている」
章男氏は言う。
かつての日本には、歴とした資本家がいた。「水道哲学」のもと、安価な製品を大量普及させた松下幸之助、技術の力で人々の生活を豊かにしたいと願った盛田昭夫などは、昭和を代表する資本家だ。
翻って現在の日本に、本当の資本家が何人いるだろうか。社会の課題解決を求めて資本を提供し、事業を展開するといった、志ある資本家がいったいどれだけいるのか。
「私一人が資本家になったからといって、変わるとは思いませんが、資本家が誰もいない日本の資本主義というのもダメなんじゃないかと思うんです」
アメリカのシリコンバレーを例に出すまでもなく、新しい産業の誕生のウラには、必ず資本家の存在がある。日本にもアントレプレナーシップ(起業家精神)を支える資本家の存在が必要なことは指摘するまでもない。
資本家としてかなりの額の私財を投じる
注目しなければいけないのは、章男氏が、ウーブン・プラネットに資本家として少なからぬ個人資金を投じる、と宣言したことだ。それも、「a significant amount of my own money(かなりの額の私財)」であるといわれている。
つまり、章男氏は、トヨタ社長とウーブン・プラネットの資本家という2つの顔を持つことになる。
「私には、単なる創業ファミリーの継承者であるということだけでなく、3代前から引き継いできたトヨタの株式をもとに、未来に投資する役割もあるんじゃないか」
章男氏が、創業ファミリーとして引き継いだ個人資産を未来に投じるのは、トヨタのモデルチェンジをやり切るというコミットメントといっていい。つまり、自らの意思を入れて、トヨタの未来をつくるためだ。
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