第20回 ワイン造りの時代の転換点に立って

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 私は現在経営コンサルティングを生業にしていますが、私が日ごろ大切にしていることは、自分自身の中に答えを持っているかということです。さまざまな経営分析をした先に答えがあるのではなく、まず自分のなかに答えがあって、その答えが本当に確からしいのかを検証するために経営分析があるのです。世の中では仮説・検証とも言いますが、この仮説というのは、理屈だけからは出てきません。

 科学というのは、繰り返しになりますが、その本質に客観性、再現性、普遍性を追及するものであるため、没個性的な行為です。だれがやっても同じ答えになるということは、だれがビジネスをしても同じ製品を開発し、同じ市場を狙うといった可笑しなことが起きる可能性があるという弱点をもっているのです。

 一方で、仮説というのは、そのヒトの全人生の経験と知見から直感的に出てくるものであって、芸術的かつ人間的な行為です。仮説は漠然と過ごしていては出てきません。自らの意識と向かい、豊かな感情をもって心の声に耳を澄まして聴いてみるとき、生まれてきます。したがって、仮説の設定そのものは、10人いれば10の仮説がでてきてよいし、再現性、客観性などないものです。だからこそ、科学的な検証が必要なのですが、この芸術的な行為と科学的な行為がお互いに補完しあって、はじめて世の中のためになる実質的なものが生まれ、行動が生まれるのだと思います。

 現在、次のようなことが言われています。「セパージュ主義的なワイン造りが広まったことによって、世界のワインの質の底上げはなされた。ただ、ピラミッドの頂点に君臨するレベルのワインについていうと、まだまだテロワール主義的なワイン造りは負けていない」。

 このように、お互いに切磋琢磨しながら、全体の質が上がっていっているのです。芸術と科学が融合するかという論点はもはや意味はありません。両者はライバル関係にあり、健全な批評精神が醸成される脳みその仕組みそのものです。

 人間というのは、自らの既成概念というものになかなか気づきにくいものです。しかし、芸術的かつ科学的思考を通して、既成概念や前提にとらわれないより上位の考え方を持ったとき、成長を感じ、未来への希望を感じ、どんな困難にも立ち向かえる気がします。

 芸術的なテロワール主義と科学的なセパージュ主義の融合した、その先には、これまで以上に優れたワインが生まれる時代が待っていることでしょう。私は、長いワインの歴史の中で、このような転換点の時代に生きていることを心から嬉しく感じます。ワイン造りがどう変化していくのか、何よりのワイン愛好家として、今後も見守り続けて行きたいと思います。

《プロフィール》
前田琢磨(まえだ・たくま)
慶應義塾大学理工学部物理学科卒業。横河電機株式会社にてエンジニアリング業務に従事。カーネギーメロン大学産業経営大学院(MBA)修了後、アーサー・ディ・リトル・ジャパン株式会社入社。現在、プリンシパルとして経営戦略、技術戦略、知財戦略に関するコンサルティングを実施。翻訳書に『経営と技術 テクノロジーを活かす経営が企業の明暗を分ける』(英治出版)。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート。
◆この記事は、「GLOBIS.JP」に2010年1月26日に掲載された記事を、東洋経済オンラインの読者向けに再構成したものです。
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