第20回 ワイン造りの時代の転換点に立って
■ワイン造りにおける芸術と科学の出会い:新たなワイン造りの序章
「ワインの醸造は、芸術でもあり、科学でもある」。かのロバート・モンダヴィは、こんな言葉を残しています。テロワール主義とセパージュ主義の融合を考察する際の論点は、「芸術と科学が融合するのか」という古典的な論点と通底する気がします。
科学的手法が広まる17世紀ごろまでのフランスにおいて、1000年以上にわたりワイン造りは、そのテロワールに根ざした芸術的ワイン造りの追求だったのではないでしょうか。
科学は客観性、再現性、普遍性が重要な要件であり、誰が見ても、誰が行っても同じようになることを追求しますが、確立した科学的手法がなかった時代のワイン造りは、造り手の勘と経験と情熱によってのみ優れたワイン造りが進化します。こうしたワイン造りは、まさに芸術家的な探求だったに違いありません。
そして、芸術家的探求の時代のワイン造りに対して、科学的アプローチで丹念に技術を蓄積し開花させた18世紀以降のワイン造りが台頭してきたということです。いまの時代は芸術と科学が交差しようとしているのです。
第16回のコラムでモンダヴィ家とロートシルト家のジョイント・ベンチャー、オーパス・ワインをご紹介しましたが、このときに、ロバート・モンダヴィとムートン・ロートシルトの醸造家パトリック・レオンは次のコメントを残しています。
「グローバリゼーションでワインづくりが世界に広がり、新世界にも普及したし、最新情報によれば、ボルドーで改革が起きている。醸造設備を新しくし、伝統に固執しているだけでは、ダメだと気づき始めた。伝統はすばらしいものだが、現代のテクノロジーで補っていく必要がある」(ロバート・モンダヴィ)
「本質的に、科学と鼻の一騎打ちだったと言えるでしょう。アメリカ人は、実験や分析には力を発揮しますが、アッサンブラージュ、つまりおいしいワインをつくるためのブレンドは不得手でした。オーパス・ワンのようなワインをつくるためには、リスクを背負わなくてはなりません。確実なレシピなどないのですから。あらかじめあらゆることを立証しておくなど、できないのです」(パトリック・レオン)
以前にも記しましたが、科学はモノごとを因数分解しながら、その本質に迫ろうとするアプローチですが、芸術的な人間の感性に直接訴えるものでなければ、自己満足に終わるものだと思います。
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