「スケボービデオ」が映し出す米国社会の問題点 映画「行き止まりの世界に生まれて」の写実力
アメリカ前大統領のバラク・オバマが「感動的で、示唆に富む。ただただ惚れ込んだ」と語り、年間ベストムービーに選出したドキュメンタリー映画『行き止まりの世界に生まれて』が9月4日より全国公開される。
2019年(第91回)アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門や、第71回エミー賞ドキュメンタリー&ノンフィクション特別番組賞にノミネートされたのをはじめ、59の映画賞を総なめにしたエモーショナルなドキュメンタリー映画だ。
舞台となるのは、工業の競争力が低下し、高い失業率に悩む一方、高い固定資産税を課している、アメリカ中西部にある工業都市イリノイ州ロックフォード。アメリカの経済誌『フォーブス』で「アメリカで最も惨めな街」のひとつに選ばれたこともある。
このドキュメンタリーは、そんな惨めな街・ロックフォードに住む若者たちの12年間に密着した作品だ。“行き止まりの世界”で彼らが必死にもがき、苦しむ様子を通じて、現代のアメリカ社会を映し出している。余談だが、トランプが大統領に当選したのは、ラストベルト(さび付いた工業地帯)と呼ばれたこうした地域に住む人々の支持を集めたことも大きかったと言われている。
大統領選の注目地区「ラストベルト」の現実
この作品の中心人物は、スケートボードを通じて出会ったアフリカ系アメリカ人のキアー、白人のザック、そして本作の監督でもあるアジア系のビン。この3人の若者たちはそれぞれに問題を抱えた家族から逃避するべくスケボーにのめり込み、家族のように絆を深めていく。
無邪気な少年時代、誰もがそうであったように、彼らもまた屈託のない笑顔を見せてはしゃぎまわっている。特に早朝、人気の少ない街をスケボーでグングンと全力ですべり続ける彼らの姿は躍動感にあふれ、多幸感にあふれている。
仲間たちのスケートビデオを撮っていたビンは、仲間からも“つねにカメラを持っているヤツ”という存在だったが、それがいつしか彼らの“記録”となっていった。
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