「ホームレスを殺す若者」を25年追う女性の真意 実の父を追いつめた彼女が歩んできた道
厚生労働省によると、日本には2019年1月現在、東京、大阪、神奈川などを中心に約4500人のホームレスが確認されている。高齢化のために年々減少傾向にあるが、彼らに対する偏見はいまだに根強い。それを象徴するのが若者たちの投石などによるホームレス襲撃問題である。
始まりは1983年だった。横浜市の山下公園でホームレスの男性が、少年10人に殴る蹴るの暴行を加えられ、死亡した。以来、全国各地で70件以上発生している。加害者の大半が10代の若者たちだ。
襲撃を食い止め、ホームレスへの偏見、差別をなくす教育を実現するため、北村さんは各地の支援者仲間に呼びかけ、2008年に「ホームレス問題の授業づくり全国ネット」(以下、HCネット)を立ち上げ、代表理事となった。
活動の軸は、全国の小中高、大学、専門学校などで教材DVD『「ホームレス」と出会う子どもたち』(HCネット制作)を使った授業を実施し、ホームレスの実態や社会的背景を理解してもらうことだ。
少年らによる襲撃事件があると現場へ駆けつけ、その地域の教育委員会や学校に授業の取り組みを要望してきた。初めは門前払いだった教育現場も、今では研修や講演を依頼してくるようになった。
「全国各地で授業をしてきたかいもあってか、2012年以降、路上生活者が亡くなる襲撃事件は起きていません。教材DVDも約4000枚売れ、多くの学校現場に行き渡りました。だから今後は、自己尊重トレーニングや自尊感情を育てる教育活動に重点を置いていくつもりだったんです」
“人殺し”に関わりたくない、でも…
ところが、今年に入ってまた起きてしまった。
現場は、岐阜市西部の河渡橋。3月25日未明、ホームレスの渡邉哲哉さん(当時81)が、少年グループに投石などの暴行を受けた末に殺された。
逮捕されたのは、大学生を含む19歳の少年5人。うち傷害致死罪で起訴されるなどした3人は、約1キロにわたって渡邉さんを執拗に追いかけ、後頭部に強い打撃を加えて死亡させたという。
5人はいずれも岐阜県内に住む友人同士で、中学や高校などで野球を通して知り合った。うち2人は、現場から約4キロ離れた朝日大学の硬式野球部員だった。
襲撃によってホームレスが死亡した事件は、JR大阪駅周辺で2012年、ホームレスの男性(当時67)が少年4人に襲われた事件から8年ぶり。
北村さんはHCネットの活動を続けながら、2009年に『「ホームレス」襲撃事件と子どもたちいじめの連鎖を断つために』(太郎次郎社エディタス)という本を上梓。襲撃事件における加害者側の心理に迫る取材を続けてきた。
だから岐阜の事件を知ってとっさに「行かねば」と思ったが、実際に現場に向かうかどうかで逡巡した。その理由は、事件の加害者や関係者に介入し、彼らの人生を背負っていく覚悟の重さがこれまでの取材で身に沁みていたからだ。
「その重さにはもう耐えきれないし、人の生き死にだけでなく“人殺し”に関わるようなしんどいことは2度とできないと思っていました。つらい闇の現実は、もう十分見てきた。できれば、これからは光を見ながら生きていたかったんです。でも手は勝手に新幹線を予約し、岐阜の支援者と連絡を取っていた」
頭では躊躇していたはずが、気がつくと身体は現場へ向かっていた。