社員47人の出版社が100万部超を連発できる訳 サンマーク出版・植木社長が語るヒットの裏側
――サンマーク出版は毎年「大ぼら吹き大会」を開いていると聞きました。
はい。年始の恒例行事です。社員全員が、絵空事でも妄想でもなんでもいいので、大ぼらを吹いて「今年はこうします」と目標を発表するのです。「ミリオンセラーにいちばん近い編集者はどんな人ですか」という質問をよく受けますが、答えはシンプルで「誰よりも願っている編集者」です。だから、法螺(ほら)も大切なんです。
実際、年始に「今年はミリオンセラーを狙います」と宣言し、翌年達成してしまった編集者もいます。ミリオンセラーの『病気にならない生き方』(新谷弘実 著)はそのようにして生まれました。出版業界の現状をよく知る聡明な人の多くは「ミリオンセラーなんて無理」と冷静に判断します。それを「限界意識」というのだそうです。編集者がそう思っていては、本当に、ミリオンセラーなんて無理です。
しかし、「思うことから、すべては始まる」です。大ぼら吹き大会は、社員の限界意識を取り除くのに大きく貢献していると思います。
次のヒットは「けったいなもの」から
――「次のヒットは『けったいなもの』から」というのも植木さんの持論ですね。
実際に2016年にミリオンセラーになった『どんなに体がかたい人でもベターッと開脚できるようになるすごい方法』(Eiko 著)という、けったいな本があります。
体が硬くて子どものころから開脚できる人に憧れていたという編集者で常務の黒川精一が、370万回も視聴されていたYouTubeを見て、著者に企画を提案したのが始まりです。それだけでもけったいだし、ミリオンまで行ってしまったのもすごいことですが、それにも理由はあるのです。
編集者の“ヘンタイ”的なこだわりがあって、実技編というべき写真とイラストの解説以外、本文は小説仕立てになっています。開脚の本が小説です。けったいでしょう。ヘンタイのなせる業といいますか、そのカタカナの「ヘンタイ」が大切なのだと思います。開脚の本は、編集者がとことんのめり込んでこだわりを持って作り上げた世界観が新しいバリューを生んだ好例です。
――植木さんは、編集者に向けて「闘う編集者たれ」というメッセージも発しておられます。
最近、僕は「本然(ほんぜん)」という言葉を好んで使っています。「本来そうであること」という意味ですが、「その人らしいこと」と言い換えてもいいのかもしれません。著者には著者の、編集者には編集者の、そして会社には会社の本然があると思います。僕は、この3者の本然が交差するところで本をつくると、それがエネルギーを生み出し、読者に届いて迎え入れられると思っています。