ただし、これらのデータからは、健康経営をしているから離職率が低い、あるいは株価が高いという因果関係があるとまでは言えません。健康経営を実践している企業はもともと業績が好調な企業であり、それがゆえに離職率が低く、株価が高いというだけという可能性も残されているからです。この点はこれからも研究を積み重ねていきたいと思っています。
山本:日本全国に中小企業は約400万社あると言われていますから、健康経営優良法人として認定されているのが3万社程度だとすると、まだまだ少ないとも言えますね。健康経営に取り組むことが当たり前のことになるために必要なものはなんでしょうか。
うえの:中小企業の皆さんにも健康経営に取り組んでいただくためには、「インセンティブ」が重要です。例えば、税制や補助金制度での優遇です。青森県では、自治体が入札基準として、健康投資を実践しているかどうかを加点要素にしています。
山本:税制関連は経営者側に非常にわかりやすいインセンティブですね。ぜひ実現していただきたいですが、国の財政を考えると簡単なことではないのでしょうか。
うえの:確かに当面は、新型コロナウイルスの感染拡大に対応するための緊急経済対策で財政支出が大きいことを考えると、来年度、再来年度の税制改正で進めるのは厳しいでしょう。そうはいっても、企業の行動変容を促していくためには税制変更は非常に有効です。健康経営の効果をしっかりと示しつつ、企業側のインセンティブを高められるようにしていきたいと思います。
国民が自然と健康になれる環境整備
近藤尚己(以下、近藤):健康づくりの活動に地域やコミュニティをどう巻き込んでいったらいいかという視点で伺います。最近、「自然と健康になれる環境整備」の取り組みとして、とくに「住宅」と「街づくり」が注目されています。「住めば自然と健康になる家や街をつくる」という取り組みです。
うえの:実は、脳卒中の79%、心筋梗塞の67%は家の中で発生しています。これをどう防ぐか。例えば、家の中で、脳卒中になったり心筋梗塞になったりすれば、家に人がいなくても、自動的に検知され、救急車が手配され、病院にこれまでの通院や服薬履歴などのデータが送信されたらすばらしいと思いませんか。実は今、大手ハウスメーカーの中に、こうした住宅の実用化を目指しているところがあります。しかし、実用化されたとしても非常に高額な住宅だと多くの人がその恩恵を受けられませんから、国も助成制度などで応援できるような仕組みが必要だと考えています。
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