そしてもう1つは「社会全体での健康づくり」をすることです。これまでの医療・社会保障は、個人が健康管理するというのが基本でした。しかし、これからは個人という単位だけでなく、企業や地域の単位でも健康管理をするのはどうかということです。
個人への保障だけでなく、企業や地域も巻き込む
山本:社会全体での予防や健康づくりというコンセプトは非常に納得感があります。新型コロナウイルスへの対策も結局はこうした取り組みが重要だと再認識させてくれたと思います。社会とひと口に言ってもその単位はさまざまと思いますが、たとえば企業ではどのような取り組みがありますか。
うえの:最近は、「健康経営」という言葉を聞くことが増えました。企業が従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することで、経済産業省が主導して推進しています。
たとえば、健康経営を行う企業を顕彰しており、2014年度から経済産業省は株式市場の「健康経営銘柄」の選定を行っています。2016年度には「健康経営優良法人認定制度」も創設しています。2020年の現時点で、優良法人として顕彰されている大企業は1477社、中堅企業は4817社、中小企業は3万社程度まで増えています。だんだん健康経営に対する認識が広がり、その裾野も広くなっているということでしょう。ただ、企業ごとの取り組みに濃淡はありますし、まったく進んでいない企業もありますので、日本全体の底上げをやっていかなければなりません。
山本:確かにこの数年で健康経営というキーワードをよく目にするようになりました。今後、さらにこの取り組みを推進するうえでの課題とはどのようなものなのでしょうか。
うえの:健康経営を実践している企業にどういった具体的なメリットがあるのかを見える化しにくい点です。
従来の財務情報だけでなく、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)要素も考慮した「ESG投資」を強化していくのは世界的な潮流ですから、当然、健康経営もESG投資の1つと位置付けられると思います。一方で、経営側としては、健康経営を実践すれば、従業員の離職率が下がるのか、株価が上がるのかといった点も気になるでしょう。限定的ですが、今すでに明らかなこともあります。
例えば、健康経営を実践している企業は実践していない企業と比較して、離職率が約10分の1程度ということを示すデータがあります。健康経営を始めた後、売上高営業利益率が大きく改善したという事例もあります。これ以外にも、経済産業省が実施した調査では、健康経営を率先してやっている健康優良企業の株価は、TOPIX(東証株価指数)で市場平均よりも約30%以上高いということを明らかにしています。
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