「いつも正しくはない」正義の味方が勝つ理由 オープンな議論を文化にするセールスフォース

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すべてが正しいとは限らないからです。やはり利益も必要ですし、CBPという政府機関のすべてが悪の存在ならまだしも、移民に対して酷いことをしたのはごく一部です。それも、トランプ政権の命じたことをそのままやっているにすぎず、下っ端の官僚をいじめても何もならないという面もありますよね。

社会にとっていいことといっても、それがいったいどの範囲でいいことなのかも考えなければなりません。これは、BLM(黒人への人種差別と暴力に対する抗議運動)問題にもつながります。黒人差別はもちろんよくないことですが、リンカーンやコロンブスの銅像を引き倒すことまでがいいことかというと、そうも言い切れない。

グレタ・トゥーンベリさんが登場して、世界的に「地球温暖化問題」と言われるようになりましたが、一方で森林伐採を規制することによって、飢え死にする人も増えるわけです。複雑に絡み合っている現代社会では、つねに何かをやるとその副作用が出てしまいます。

一方的に「これだけで解決する」というものはありませんし、公正さを保つというのは、すごく難しい。ベニオフもその点を悩みながら、バリューとバリューの衝突について真剣に考えていることがよくわかりますね。

企業文化が支える真の「正義」

僕は、正義という言葉についてよく考えます。日本では、正義というと「正義の味方」、いわゆる「正しいこと」というイメージで語られますが、本来の正義は、20世紀アメリカの思想家ジョン・ロールズが『正義論』で唱えた「justice」、これは「公正さ」という意味です。

佐々木 俊尚(ささき としなお)/ジャーナリスト。1961年兵庫県生まれ。早稲田大学政治経済学部中退。毎日新聞記者、『月刊アスキー』編集部を経て、2003年よりフリージャーナリストとして活躍。ITから政治、経済、社会まで、幅広い分野で発言を続ける。最近は、東京、軽井沢、福井の3拠点で、ミニマリストとしての暮らしを実践。『レイヤー化する世界』(NHK出版新書)、『そして、暮らしは共同体になる。』(アノニマ・スタジオ)、『時間とテクノロジー』(光文社)など著書多数(写真:筆者提供)

公正さは、事前には決まらないものです。2つの相反する物事があり、それを天秤にかけてみて、はじめてどちらが重かったかということがわかってくる。絶対的な善は存在しないという考え方です。だからこそ、悩まなければならない。社会にとって正しいことは、まさに「justice」を追い求めることだと思います。

そして、この悩むプロセスが難しい。だから、文化が必要だと思うのです。『トレイルブレイザー』では、盛んに「企業文化」ということが語られています。

何が善で、何が悪かが一方的に最初から決まっているなら、そのガイドラインどおりにやっていればいい。しかし、大事なのは、ガイドラインもルールも存在しない中で、それをみんなでオープンに議論しましょうという文化なのです。

セールスフォースは、そのオープンな議論に、経営陣だけでなく、従業員も、顧客も、会社の外の人も参加できるような開かれた企業文化を目指しているといえます。ドラッカーの「企業文化は戦略に勝る」という言葉も引用されていますね。みんなで悩もう、みんなで議論しようという精神です。

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