「いつも正しくはない」正義の味方が勝つ理由 オープンな議論を文化にするセールスフォース

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しかし、新型コロナによって、また風向きが変化しています。接触通知アプリ「COCOA」はグーグルとアップルが開発しましたし、台湾や韓国はGPSアプリによる完全監視システムで感染を抑え込みました。テクノロジーに対する拒否感がある一方で、やっぱりテクノロジーが救ってくれるんだ、プライバシーを犠牲にしても、感染を抑えるほうがいいじゃないかという声も高まっているわけです。

また、中国ではBATH(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)と呼ばれる4社が急成長し、GAFAに並ぶ規模とまで称されています。もちろん、世界的なプラットフォームではありませんが、これらの中国企業はデータを自由に操っているという特徴があります。

中国では、国家が先んじてデータを収集しているほどですから、そもそもデータ規制の発想がありません。新型コロナ禍でも、すべての個人の位置情報を完全に管理して、公共の建物への出入りまで判定するシステムを作り上げました。

こういったことから、今後は、中国のAIが最先端になるとも言われています。AI開発には大量のデータが必要ですからね。プライバシーの信頼を批判されてきたGAFAが、中国に先を越されるのではないかともささやかれているのです。

今後、インターネットの領域がどんどん拡張して、IoT、VR、身体、フードテックなど日常生活にあるアナログの世界が浸食されていくでしょう。そこで新たにプラットフォーム・ビジネスを展開するのは中国企業かもしれませんし、現にドローンの最大手企業DJIは中国企業です。

それらが信頼の文化を重んじてくれる企業ならいいのですが、期待できるのかどうか。少なくとも中国企業では難しいでしょうね。でも、やらなければ映画『マトリックス』の世界になってしまいますし、今後はアメリカ政府も、GAFAを叩いて、中国企業の進化を許してしまってよいのか、という判断に迫られる可能性もあります。

「信頼」に回帰するベニオフへの期待

このような状況下において、セールスフォースのような巨大企業が「信頼」に取り組んでいるというのは非常に面白い現象だと思います。もっとも、オンライン・シリコンバレーは、そういうところからスタートした世界でもありますから、回帰現象の表れとも考えられるかもしれません。

スティーブ・ジョブズも、ビル・ゲイツも、もとはヒッピーです。1960年代後半~70年代初頭に登場したヒッピーは、精神の解放を求めて、革命で世界を変えようとしましたが、それは無理だとわかった。その後、マリファナやLSDに走ったものの、それも違った。そして行き着いたのが「精神を解放するのはコンピューターではないか」ということでした。

ところが、当時は大型コンピューターばかりで、すべて企業に支配されていた。そこで、精神解放の名のもとに考案されたのが、個人のためのパーソナル・コンピューターであり、シリコンバレーのコンピューター文化の発祥でもあるわけです。

ベニオフもそういった文化を土台に持っている人物でしょうから、「信頼」をキーワードにして、大切なものを取り返しつつあるのだと期待したいですね。彼らの今後に、ほのかな希望も感じています。

(完)
[構成:泉美木蘭]

佐々木 俊尚 作家・ジャーナリスト

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ささき・としなお / Toshinao Sasaki

1961年兵庫県生まれ。早稲田大学政治経済学部中退。毎日新聞記者、『月刊アスキー』編集部を経て、2003年よりフリージャーナリストとして活躍。ITから政治、経済、社会まで、幅広い分野で発言を続ける。最近は、東京、軽井沢、福井の3拠点で、ミニマリストとしての暮らしを実践。『レイヤー化する世界』(NHK出版新書)、『そして、暮らしは共同体になる。』(アノニマ・スタジオ)、『時間とテクノロジー』(光文社)など著書多数。

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