『アナと雪の女王』はなぜ面白いのか ディズニーアニメを率いるジョン・ラセターの力

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もっとも、買収にともなう一連の人事では、ラセターが、ピクサーのみならず、ディズニーのアニメーション部門のチーフ・クリエイティブ・オフィサーにも就任した。このことからも分かるように、この買収の直接的な目的は、ラセターの手腕を活かすことにより、ディズニーのCGアニメをテコ入れし復活させることにあったことは間違いない。

ラセターは、ディズニーにもピクサー流の制作手法を持ちこんだ。ピクサー流とはどのようなものか。それは、CGの技術、コンピュータの扱い方といった小手先のことではない。ラセターは「自分はストーリーテラーである」と言い切るほど、自分のストーリー構築能力に自信を持っている。だが、ラセターのすごいところは、自分のアイデアに凝り固まることなく、仲間の意見を取り入れて、もともとのアイデアをどんどん変えてしまうことだ。

スタッフとの共同作業を重視

『アナと雪の女王』のクリス・バック監督(左)とジェニファー・リー監督=2014年1月29日撮影  写真:まんたんウェブ/アフロ

2009年、ディズニーによるピクサー買収後、初の長編CGアニメ映画となった『ボルト』の公開時、ラセターは本誌の取材に対し、こう語っている。

「参加するスタッフに情報はすべて与えるが、それをどう表現するかまでは説明しない。彼らは自分のクリエイティブな面を発揮して僕がやるのとはたぶん違うことをしてくる。それが逆にインスピレーションになって、さらによいアイデアが生まれるのだ」――。

ピクサーのアニメは、ラセターの監督作品も、プロデューサーとしてかかわった作品も、どちらも抜群におもしろい。どちらにしても、スタッフとの共同作業を重視しているからだろう。

『アナと雪の女王』にしても、多くのスタッフが議論を重ねた末、当初案とはまったく異なる形で完成した。劇中歌「Let It Go」を聴いたスタッフたちは、その曲のすばらしさに魅了され、当初は悪役的な存在だった姉のエルサを、もう一人の主人公に変えてしまった。クラシックな雰囲気を持ちながら、極めて現代的なストーリーになっているのもおそらくは、スタッフ間でそうとうな議論が重ねられた末の結果に違いない。

CGアニメとして見事な仕上がりとなった『アナと雪の女王』は、ピクサーで歴代最高興行成績をあげた『トイ・ストーリー3』(10.6億ドル)を上回った。こうなると次の課題は、逆にピクサーがディズニーの『アナと雪の女王』を超える作品を生み出せるかどうか、ということだ。

ラセターの元で、ディズニーとピクサーのスタッフが最高の映画づくりを目指して高いレベルで切磋琢磨することになった。その結果、次はどのような作品が現れるのか。世界中の映画ファンにとって、楽しみな時代を迎えたといえるだろう。=敬称略=

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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